うまくいかなかった動画編集カフェ「クリエイターの集まる場を作りたかった」
──そもそもなんですが、原稿執筆カフェを立ち上げるのは何がきっかけだったんですか?
「大学時代は映像を学んでいて、卒業後にCM制作会社で働いていたんです。その後SNSまわりの仕事をしていた頃に、『Ustream』や『ニコニコ生放送』をはじめとする映像配信サービスが始まりました。“これはおもしろそうだ”と思って、“高円寺三角地帯”をライブ配信スタジオとして利用し始めたのが大元のきっかけです。
ただライブ配信スタジオとしての機能だけじゃなくて、何か面白いことをやりたいという思いはずっとあって。コピーライティングの仕事もしていたんですが、“漢字四文字”の名称はキャッチーでわかりやすそうだなと思ってたんですよね。
──なるほど、それで漢字4文字である原稿執筆カフェを立ち上げた。
「いえ、最初は『動画編集カフェ』を立ち上げました。“高円寺三角地帯”でいちばん最初に始めたのは配信スタジオとしての場所だったし、自分も映像の仕事をしてるのでハマるかなと思ったんですが、うまくいかなかったんです」
──そうだったんですか、動画編集者も最近は増えてきたし話題になりそうですが……。
「動画編集者って、1台のノートパソコンだけじゃなくて、外部モニターを使って2画面で編集することが多いんですよ。YouTube編集者が殺到するかな……と思ったけど、ヒットしなかったです。
ただ、自分も創作に携わっていたので、“クリエイターが集まる”という空間はどうしても提供したいと思っていて。そのときに知り合いの脚本家から、“静かに執筆できる場所があればいいな”という声を聞いたんです。であれば、執筆しかできない、締め切りに追われていないと入れない、という場所を求めている人は、一定数いるのでは?と思い、『原稿執筆カフェ』の立ち上げに至りました」
──なるほど。そこにニーズがある限り、必ず誰かには響くはずだと。
「そうですね。9月から始まった『経費精算カフェ』も考え方は同じです。“領収書が溜まっているし早く処理したい。でもなんか気乗りしないし、申請の仕方は合ってるのかな……。”と思う人が少なからずいる。需要規模は小さくとも、 “自分のための場所だ!”と思ってくれる人は必ずいると思い、知り合いの税理士さんに頼んで始めました。
もし評判がよかったら発展させて、『確定申告カフェ』にもチャレンジしたいですね。実現したら行政にスポンサードしてもらいたいです(笑)」
◇ ◇ ◇
ひとつの場所をあらゆるコンセプトで運営している“高円寺三角地帯”。実は、少し前まで運営していた映画ファンのための空間『封切り酒場』は、立地上、ビジネスモデル上の問題から時期尚早と判断して今は引っこめているという。とはいえ、「高円寺三角地帯という“箱”をシネマコンプレックス(複合映画館)のように運営していきたい」と語っていた川井さん。ユーザーの声や時勢に柔軟に対応しつつ、数々のイベントをユーザーに提供する姿勢は、今後も変わらず続けていくとのこと。
第2弾インタビューでは、川井さんが大手町で運営する『絶滅メディア博物館』、『ヒマナイヌスタジオ大手町』の空間設計術と、川井さんの場づくりへのモチベーションの源泉を紹介する。【第2弾インタビュー→“デジタルの力で文化を継承する”『絶滅メディア博物館』の仕掛け人、川井拓也さんのモチベーションは「最適化と遊び心」】
(取材・文/FM中西)