等身大サイズの自分になって見えてきたこと

──会社員を辞めて、ひとりでセンジュ出版を立ち上げたときは、不安はなかったのでしょうか?

「周りに促されるように会社を立ち上げたものの、自分のやりたい本作りができるという点では、非常に楽しさを感じていました。しかしその一方で、もちろん不安もありました。

 編集者として何十年と出版業界に携わってきて、当然業界の構造は理解していましたし、それに最後の会社を退職する前は、小さな出版社の立ち上げに役員として関わっていたので、どのくらいの運転資金が必要で、何にコストがかかるのかも理解して、誰よりもリスクについては把握していたつもりです。それでも結局主人に言わせれば”周りが何を言っても、あなたはやるでしょ”という性格らしいので、不安よりもやりたいことが少し勝っていたのだと思います(笑)

──前向きな気持ちでいられたということですね。

自分が嘘偽りなく、世の中に問うていきたい本を“自由”に作れることが大きかったと思います。会社員のころのように、 企画書を書いて上司を説得し、予算を取っていく本の作り方も意味があり、私自身もそのなかで編集スキルを磨いてきたので大事さは痛感しています。ですが独立後は、世に残していく本を自分で自由に選び、作り上げられることに喜びを感じていました」

等身大の自分でいられると話す吉満さん 撮影/伊藤和幸

──今は協力してくれるスタッフも増えたとお聞きしていますが、改めて、ひとりで出版社を立ち上げるやりがいや醍醐味は、どんなところにありますか?

私が、ひとり出版社を立ち上げてよかったと思うのは、“等身大の自分”で仕事ができることです。著者に会うときも、ありのままの自分でいられるので、相手も同じ目線になって私と話をしてくれます。“何万部、何十万部の本を売りました”と言っていた会社員時代は、そういう数字に魅力や正義を感じていて、そういうことで私自身も評価されていました。

 それに比べてセンジュ出版は0の単位が2〜3つ少ない発行部数で、自分の等身大サイズの事業を行えるようになったことで、相手も飾らず私に向き合ってくれるので、誰にも話したことのない話が聞けるなど、飾らない人の美しさに触れることができるようになりました

──具体的にはどういうことでしょうか?

「例えば、“誰にも今まで言ったことはないんだけど……”、“吉満さんだから聞いてほしい……”といった話を、たくさんの方がしてくださいます。決して活字にはならない話でも、その話を本人が吐き出さない限り、私たちが本当に聞きたいと思っている本音の部分が見えてきません。

 つまり、その手前の、どこにも行き場がなかった感情や思いをまず言語化してもらうことでしか、著者の奥にある優しくてピュアな言葉には、たどり着けないのです。これは、等身大の私だからこそ、相手に踏み込むことで生まれてくるのだと思っています」

その視線の先には、今度はどんな対話が待っているのだろう 撮影/伊藤和幸