“対話”という共通言語のもと、メニューもリブランディング

──その他に、会社としての変化はありましたか?

「対話という共通言語ができたおかげで、私のプロフィール写真ひとつとっても、“こうするべきだ”という意見がスタッフから飛び交うなど、センジュ出版としての情報発信の仕方や表現方法が大きく変わりました。

 私たちがやってきたことが、すべて“対話”だと認識できたとき、まさに目の前の霧が晴れ、道がすーっと先まで伸びていく感覚になり、みんなで目指すべき道が見えるようになりました。それに、新たなサービスが続々生まれたきっかけにもなりました」

──具体的にはどんなサービスですか?

創業当時から提供している文章講座『文章てらこや』では、新たにオンライン講座をスタートさせ、今では対面とオンラインのハイブリッド型で講座を行うまでになりました。また、これまで個別で行っていた経営者向けの表現講座もカリキュラムを整え、複数名が同時に参加できるようにしました。

 特に、経営者の言葉は従業員全体の士気にも影響するため、会社の売上をも左右します。しかし、私も含めて、普段言葉を無自覚に使っていることで、無意識下のさまざまな思いを言語化できないばかりに“どうして社員に自分の意図が伝わらないんだ”と社員とのコミュニケーションに苦労している経営者が多いです。意識下の自分と、無意識下の自分が対話することで、伝えたい思いが言語化され、一番大切なことがスタッフやお客様に伝えられるようになります。実際私も、この数年でそのことを強く体感しました」

“対話”という強みを言語化することができた今の吉満さんは、さらに“向かうところ敵なし”だ 撮影/伊藤和幸

──ここにたどり着くまでは、苦労の連続だったと思います。吉満さんの原動力とは何でしょうか?

「これまでずっと謎だったのですが、先日知人と話しているときに気づきました。例えば、センジュ出版を必要としてくださる方々は、どこかで自分の弱さを抱えていたり、何かに立ち止まっていたり、苦しさを抱えていたりする方が少なくありません。つまり、私がそういう人を求めている、もしくは私の中にそういう自分がいるのだと思います。では、そんな自分とは何なのか──。

 思い返すと、大学生のときに児童養護施設のボランティア活動で見た光景が、原風景としてありました。山口県にある施設でグループに分かれて、子どもと遊ぶ研修を行いました。研修中は子どもたちも本当にうれしそうで、一緒に楽しい時間を過ごしていたんです。ですが、私たちが帰る時間になり、マイクロバスの窓から手を振ろうとすると、そこから見えたのは、施設の前で手を振る、寂しく哀しそうな子どもたちの姿でした。

 非常におこがましい言い方ですけど、世の中からあの寂しい瞳をなくしたい。私はそういう思いでセンジュ出版を続けているんだと、先日改めて思いました。

 もちろん、大学生時代のその瞬間に“私は出版社を立ち上げなければ”と思ったわけではありませんが、あのとき何かを感じた私に、どんどん戻っている気がしています。当時感じたことを捨て去ることができずに、ずっと20年以上きてしまいました。

 会社員時代は、その感情にフタをして、目の前の仕事だけに向き合ってきましたが、今は大学時代に感じたあのときの私の憤りや悲しさ、やるせなさを非常に思い返します。もし地球上からあの哀しい姿がなくなったら、私はセンジュ出版を辞めると思います

すべてを包み込むような温かさと優しさを感じた 撮影/伊藤和幸