吉満さんの、“ここが気になる”聞いてみた!

■書籍の執筆を依頼する際の、著者選びのポイントは?

 私の著者選びのポイントはふたつです。ひとつは、その方の言葉や行動力が、必要としている読者に伝わるものなのかどうか。さらには、10年、20年たってもさびない内容があること。これがセンジュ出版で書籍化するうえでは重要な要素になります。

 そしてもうひとつ大事なのは、著者の「声」です。これはまったく言語化できず、本当に私の直感で決めています。私は本の編集をしているにもかかわらず、文章をあまり信用していないところがあります。なぜなら、文章は本人が悲しいと思っていても明るく書けますし、楽しく明るいときでも、暗いことを書くことができます。でも、声はウソをつけません。話すときのトーンやリズム、そして間が、文章の行間と呼ばれる部分に匹敵すると思っているので、著者に話を聞いた際に、本で伝えたいことと違和感がないかどうかは、非常に重要なポイントにしています。

人生においてのマイルールは?

 対話を大事にしている会社だからこそ、相手から「答え」を求められないように気をつけています。もっと言うと、センジュ出版に絶対解を求める人が来ないようにしています。文章講座では、「こういうふうに書けばいい」といったテクニック的なことや、経営者向けの講座では「こうすれば売上が伸びます」といったノウハウは一切教えていません。常に私が言っているのは、“あなたの中に答えがあり、それを対話しながらあなたが思い出す、あるいは見いだしていくことで解を見つけていく”のだということを、お伝えしています。

■吉満さんにとっての「本」とは?

 本がこんなに奥深かったかと気づいた(思い出した)のは、実はセンジュ出版を立ち上げてからです。大学生のときに感じていた本の存在や編集という仕事への憧れを、ある意味、資本主義の中で忘れて(フタをして)しまっていました。当時は売上や利益を追いかけることに、自分のミッションや意義を感じていた時期でもあったと思います。そのころは何万部、何十万部と本を売っていたものの、今ほど読者に会ったり、生の声を聞いたりしたことはほとんどありませんでした。

 そういう時期を経て、その都度更新されていきますが、今私が考えている“本”といえば、自分を思い出させてくれる道具だということです。(本の中の)他者の言葉によって、どんどん昔の私に戻っていく感覚になり、そんな風に自分を呼び覚ましてくれる機能が、本にはあると思います。これからもそういう本と出会い、そういう本を読者に届けていきたいですね。

■おすすめの本屋さんは?

 東京都江戸川区の篠崎にある『読書のすすめ』という書店です。ここのスタッフの小川さん、この方に会わなかったらセンジュ出版はつぶれていました。今でも、小川さんはうちの新刊が出ると毎回、数百冊を買い切りで注文してくださいます。彼と出会ったのは、ある先生の講演会のブースです。私の隣で書籍販売をしていました。

 当時センジュ出版は、まだふたつのタイトルの本しかなかったころですが、小川さんはうちの本の装丁にただならぬ雰囲気を感じたそうで、しかも私がひとりで本を持ってきて販売していたので「見ればわかる。この本は絶対にいい本だ。あの本をそのまま持ち帰らせるわけにはいかない」と思ってくださったようでした。

 それから、小川さんは全国のいろんな人の講演会に出張販売で行くたびに、センジュ出版の宣伝もしてくださって。小川さんのおかげで、「センジュ出版が出す本なら必ず購入します」という人が増えました。

■生涯大切にしている本は?

 私が12歳のときに、母からプレゼントしてもらったミヒャエル・エンデが書いた『モモ』ですね。誰かの話をじっくりと聴き、その人が笑顔になっていくのを幸せに感じる。いつかは主人公の『モモ』のようになりたいと思っていました。

 先日、死生観を養うワークショップに参加しました。自分が大切にしている思い出や人・モノ、夢や希望を紙に書いて、主催者が話すストーリーに従い、それらを1枚ずつ捨てていきます。そこで私が最後に残したものは、母からプレゼントされた『モモ』でした。

 ワークの最後に、便箋に夫への遺言をしたためますが、そこにも「母からプレゼントされたモモを私のひつぎに入れてください」と書きました。まだまだ人に説明しきれていない私の『モモ』への思いがあるようです。

吉満さんの言葉ひとつひとつが熱を帯びていて、その場にいる人を魅了する 撮影/伊藤和幸
空中階の利用者が持ち入り集まった本たち。利用者が自由に値段をつけて購入することができる 撮影/伊藤和幸

 

・公式ホームページ:https://senju-pub.com/

(取材・文/西谷忠和、編集/本間美帆)


【PROFILE】吉満明子(よしみつ・あきこ) 1975年、福岡県生まれ。日本大学芸術学部文芸学科卒業後、高齢者福祉専門誌編集、美術写真集の出版社勤務を経験。その後編集プロダクションにて広告・雑誌・書籍・WEB・専門紙など多岐に渡る編集を経験し、同事務所の出版社設立とともに取締役に就任。2008年より小説投稿サイトを運営する出版社に中途入社、編集長職就任後に出産。2015年4月に出版社を退職、同年9月1日、足立区千住に“しずけさとユーモアを大切にする小さな出版社”、株式会社センジュ出版を設立。多数のメディアに出演実績を持つ。