日本のクリエイターとして、海外市場とどう向き合うか
──長編アニメのもとになった『メイクラブ』は、YouTubeで海外の方からもたくさんのコメントがついていますよね。安田さんのアニメも海外の方に刺さる可能性は高いと思うのですが、「海外でもヒットするコンテンツ」とはどのようなものだと考えますか?
「難しい問いです。自分としては、日本のアニメ制作の現場が、海外展開を意識して大きく変えなければならないポイントは、そこまでないような気がしているんですよ。実際、海外の大手アニメファンサイトを見ていると、海外の方が好むアニメランキングの上位に入るものは、日本で人気のあるものと大差ないことが多いんです。“その国の倫理観に合わない作品”と“その国の人の日常を日本人が描いた作品”でなければ、受け入れられる可能性はあると思っています。
ただひとつやってはいけないことがあるとすれば、海外でのヒットを目指して、ハリウッドのような世界的コンテンツをいくつも生み出しているような会社と同じ土俵に乗ることだと思います」
──どうしてですか?
「残念ながら、彼らとは制作にかける予算や時間が大きく異なるからです。ただ、先ほどのランキングにあるように、日本のアニメも海外の多くの方に支持されています。日本人の感性と海外の方の感性が大きくズレているわけでもないので、クリエイターは日本独自の武器を生かして、今までどおり目の前の制作にしっかり取り組むことが大切だと考えています」
──日本独自の武器は、海外と比べてどういったところにあると思いますか?
「日本人は子どもの頃からさまざまなアニメに囲まれて暮らしているので、アニメ作品の良し悪しを判断する眼をナチュラルに備えているように感じます。例えば、海外出身の方とアニメの仕事をすると、アニメとしてどんな表現が“あり”か“なし”かが、伝わりづらかったりします。作画も日本ならではの武器かもしれません」
──安田さんもそういった日本ならではの武器を生かしながら、海外の方にも見ていただける作品を目指していく?
「海外の人気アニメランキング60位くらいのラインアップを見てください。これくらいの順位には、コメディ作品や日常を描いた作品、ジャンル分けが難しい渋い作品がランクインしているんです。
大作やロングセラーの人気アニメだけでなく、さまざまな作品をちゃんと見てくれる土壌が海外にもありますから、変におびえることなく己の信じる創作をすればよいのではないかと日頃から考えています」
──日本には宮崎駿監督や新海誠監督のような方が出てきづらい環境があるといった議論も、一部ではあるようですが。
「いえ、それもたぶん、アメリカや中国でもそこまで変わらない話だと思います。宮崎監督も新海監督も日本のトップクリエイター。アメリカで言えば、ジョン・ラセターやスティーブン・スピルバーグのようなものです。そういった方々が、アメリカや中国でマジョリティかというと、そうではありません。そこまで飛躍して考えずとも良いのかなと感じます。他国との違いで語るべき課題は“作業者を育てる環境”と“クリエイティブ以外の部分”にあると考えています」
──安田さんが最近気になっている海外のエンタメコンテンツは、何かありますか?
「韓国発のコンテンツです。内需だけでは大きく利益が生み出せないため、ドラマなどでは海外展開を前提とした企画作り。アイドルなどでも他国に伝わる見せ方を意識したパフォーマンス。そういった細部から感じる“ものづくりへの真摯な姿勢”がとてもいいなと思っています」