「妻が落ち込んだときに、帰れる場所になる」寡黙な夫が内にに秘めた“熱い思い”

──夫婦間でのルールなどは設けましたか?

“恋愛とセックスは外で自由にする。家の中には一切、持ち込まない”。それが、結婚前に決めた取り決めでした。実際に結婚生活を始めてみると、まず相手に対して嫉妬という感情がないから、すごく楽だった。でもね、私がホストにハマったり、金づかいが荒くて税金を滞納したりしていたら、あるとき、税務署に呼び出されて怒られたんです。一緒に行った帰りに、喫茶店でお茶を飲みながら、“本当にこんな妻でごめん”って言いました。そうしたら彼は、“あなたと結婚するとき、気軽に、いいよ〜みたいな感じで言ったけど、本当はすごく悩んだんだよね”って話し始めたんです

──胸の内を明かしてくれたのですね。

彼は、“あなたと結婚したら、あなたの人生を半分引き受けなければいけない。あなたは、どんな不始末をしでかすかわからない人だから(笑)、そうなったときに、この人の人生を支える覚悟があるかなって、自分に問いかけたんだ”って。でも、自分が日本にいるうえで必要なら、この人をちゃんと守りきると決めて、結婚したのだと。そんな決心をしていたなんて、こっちはそれまで知らなかったのだけれど」

──口には出さなかったけれど、旦那さんにも覚悟があったのですね。

「私は、同じ毎日が退屈だって思うタイプ。彼は逆で、私のことを“夫婦になったら、妻は飛び回って、僕はずっと家にいるんだろうな”って思っていたらしいけれど、実際にそのとおりになったんですよ(笑)。でも、彼は“どんな人だって、一生飛び続けることはできない。疲れたり、落ち込んだりしたときに、あなたが帰る場所になってあげようって思った”って言ってくれた。そんなことまで考えていたんだ……と思って、ちょっとびっくりしましたね」

──窮地に陥ったときに寄り添えるのが、夫婦や家族かもしれないですね。

「そうなんですよ。結婚する意味って、こういうことなのかもしれない。結婚することで、“セックスの相手は俺だ”とか、“恋愛は私だけにして”みたいに強制しあうのではなくて、“誰もわかってくれなくても、この人は私のことをわかってくれるんだな”みたいな。そういう相手と一緒にいることが、結婚なんじゃないかと思います。港みたいな安心感があるというか。だったら、そこには別に恋愛もセックスもいらないし、自分の場合はむしろ邪魔って思う」

「制限だらけの結婚生活なんて、絶対うまくいかないですよ!」と熱く語る 撮影/北村史成

──でも、周りからはおふたりの関係性をなかなか理解してもらえずに、苦労されたのではないですか?

当時は、報道記事なんかにも“偽装結婚”って書かれたんですよね。本当に頭にきちゃった。じゃあ、実際は憎み合っているのに、世間体とかを気にして関係を保っている夫婦が本当の結婚なのか。愛し合っていないなら、そっちのほうが偽装結婚じゃないって思って(笑)。それで何かの寄稿で、“たとえゲイと結婚しても、信頼関係があればそれもひとつの結婚だ”みたいなことを書きましたよ」

──中村さんは著書でも、いつも生きづらさについて書かれていますが、いろいろな価値観がもっと認められるようになるといいですよね。

「結婚するとしても、みんなが理想としているような形に無理して合わせなくてもいいじゃんって思うんだけれど、既製の服のように型が決められてしまっている。でも実際は、規定のサイズやデザインが体形に合わない人もいますよね。それなら、みんな身体に合わせたオートクチュールを作ればいいんじゃないかなって思うわけですよ。既製品を無理やりあてがったら、途中でファスナーが壊れちゃったり、糸が取れたりしてくるでしょ。だから、自分にいちばん合った形の結婚をすればいいと思う