クライアントとは“全力”で“雑談”しています

──山崎さんなりの取り組みやアプローチの仕方を伺いますが、仕事のフロー(流れ)を教えてください。

「ご依頼をいただいたら、まずはヒアリングをして、お客さまのご要望を伺います。個人住宅の個室やリビングなら、本来はどんな空間にしたいのか、どんなトーンでそろえたいのかを聞くのですが、わたしはクライアントが住まいを通して“どんな生き方をしたいのか”を聞くようにしています

──どんな家にしたいかではなく、“どんな生き方をしたいのか”ですか?

「はい。家というのはクライアントによってとらえ方がぜんぜん違います。ある人は家を“くつろぎの空間”と考えるでしょうし、別の人は“一家団らんの場所”と考えます。さらに別の人は“愛情がたっぷり詰まったところが家”だと思っているかもしれないし、人によっては“仕事や時間に追われる非日常から逃れられる場所”と思っているかもしれません。こんなふうに、“家”に求めているイメージはさまざまで、みんな違いますよね。

 たとえば、バリバリ働いているご主人がいたとします。家族のためにものすごく頑張っているお父さんです。そういうクライアントが住まいに“くつろぎ”を求めていたら、その人にとっての“くつろぎの空間”というのは、平日は必死に働いているからこそ、休日は仕事のことを忘れて心身ともにリフレッシュしたい、リラックスしたいところなのかな……、というふうに考えます。その方には仕事がとても大事ですが、家族も大事。どちらも大事にするのがその方の“生き方”なのだなと思うんです。お客さまのヒアリングは、そんなふうに始めます」

──飲食店などの店舗の場合もですか?

「お店の場合はもっとわかりやすくて、クライアントはほとんどが個人事業主になります。会社組織にしていてもそれほど規模は大きくないので、そのお店が“=社長の人柄、生き方”になると思っています。社長の生き方がお店の雰囲気に表れる、と言ったほうがわかりやすいかもしれません

──お店を見れば、社長や店主の生き方がわかる?

「はい。わたしはそういうデザインやコーディネートをしたいと思っています」

──開放感がある店内にしたいとか、明るいイメージのお店にしたいなど、リクエストが抽象的だった場合は?

それは主観の問題なので、お客さまが思っている“開放感”と、わたしがイメージしている“開放感”のすり合わせをします。わたしは海が近い街で育ちましたが、都心で育った方の開放感と地方で育った方の開放感は絶対に違うわけですから。そのためのヒアリングなのですが、お客さまには“雑談”のつもりで気楽にお話しくださいと伝えているんです。

 話しながら、わたしはいろんなところにアンテナを張ります。だぼっとした服装をした方なら、脱力する感じの部屋が好みかなと思うし、パリッとした服装をしておられればシャープな感じを取り入れたほうがいいのかなとか。ゆっくり話す方もいれば、少しせっかちな感じで話す方もいるし、声のトーンも違うので、その方にとっての“開放感”をわたしなりに探ります。どこにヒントがあるかわからないから、雑談とは言ってもわたしは全力で“雑談”するんですよ(笑)」

──クライアントの“生き方”を探るようなヒアリングだと、ものすごく時間がかかるのでは?

「その方のスケジュールにもよるので、1時間でヒアリングを終わらせる方もいれば、4時間くらいみっちりと話し込む方もいます。わたしからすれば、ヒアリングが終わった時点で仕事の8割は終わったようなものです

──ヒアリングがどれだけ重要なプロセスなのかわかりますね。ヒアリングの後の流れは?

「次はプレゼンです。CG(コンピュータ・グラフィックス)を使うことが多いのですが、クライアントから伺った話を元に、ご依頼いただいた空間の完成予想図を描きます。壁紙などはサンプルを何種類か用意して持参し、こんな感じの配色になりますという具体例をお見せします」

──ヒアリングからプレゼンまでの時間はどのくらいですか?

「色の組み合わせを考えたり、調べものをする時間を入れて、CGができるまでにだいたい10日~2週間くらいですかね。1フロアだけとか、それほど量が多くないときは1週間くらいで仕上げるときもありますけど。完成予想図をお見せして、クライアントが納得してくださったら、施工の発注になります」

──プレゼンの段階で、クライアントから“イメージしていたのと違う”というようなことを言われたりは?

この仕事を始めて8年になるんですが、ありがたいことに、いままで一度もそういったことを言われたことがないんですよ。もし、イメージと違うと言われたら最初からやり直しますけど

──やっぱり、ヒアリングの成果が出ているということでしょうか。

「だと思います。そのために全力で雑談しているわけですから。こう見えてもわたし、仕事にはかなりストイックなんですよ(笑)」