『ロッキー』の吹き替えも、他の人に替わってもらおうと思った
──『ロッキー』シリーズの吹き替えをもう40年近くも続けられていますが、これだけの長い年月を経ると、スタローンも歳をとります。俳優の年齢の変化に合わせて、羽佐間さんも意図的に歳をとった声になるよう変えていきましたか?
「そこは自然と年齢の変化に合わせた演技になりますね。スタローンも歳をとるし、ぼくも歳をとっているから。特に意識して変える必要はないと考えています。それにしても、長くやりすぎだよね(笑)。
そもそも、スタローンは、ささきいさお(※2)に“あなたがやったほうがいいよ”と言ったことがあるくらいです。ぼくよりも彼の声のほうがスタローンに合っていると思うんですよ。彼も“やっていいですか?”と言うから、“別にぼくが許可する問題じゃないよ”と言いました」
(※2)ささきいさお:デビュー当初は「和製プレスリー」と称された低音域の力強い声を特徴とする歌手。その後、『宇宙戦艦ヤマト』などのアニメソングを歌って人気に。声優、俳優としても活躍。
──『ロッキー』シリーズ以外では、『ランボー』シリーズ(※3)の一部や『コブラ』(※4)、『オーバー・ザ・トップ』(※5)といった1980年代の作品までは、羽佐間さんがスタローンの専任という感じでしたが、それ以降は、ほかの声優がスタローンの吹き替えを担当することが多くなりました。しかし、『ロッキー』だけは現在も羽佐間さんが担当を続けています。
(※3)『ランボー』:シルベスター・スタローンがベトナム戦争の帰還兵ジョン・ランボーを演じるアクション映画。『ロッキー』に続くヒットシリーズとなり、1982年から現在までに全5作が製作されている。
(※4)『コブラ』:シルベスター・スタローン主演のアクション刑事映画。1986年公開。
(※5)『オーバー・ザ・トップ』:シルベスター・スタローン主演。アームレスリング(腕相撲)を題材に父子の絆を描いた映画。1987年公開。
「ぼくは、『ロッキー』もほかの人に渡すつもりでいたんですよ。でも、プロデューサーや関係者の人たちが“やってほしい”と言うのでね。スピンオフ作品の『クリード』(※6)のシリーズでもやっています。ロッキー=羽佐間という既成概念みたいなものをみんな持ってしまっているのかね。“頼めばやってくれるだろう”と思われているみたいだし、実際引き受けているけど(笑)。でも、もう40年近くになるのでさすがに……、という思いはありますね。だいたい、ぼくはスタローンが好みじゃないから」
──39年もロッキーの声を吹き替えていて、シルベスター・スタローンはお好きじゃないんですか?
「好みじゃないなあ。ああいうマッチョなタイプはぼくとは全然違うからね。でも、ぼくのファンだと言う人は男性が多いんですよ。8月に行われた『ロッキー4』再構成版の公開前夜祭イベントに登壇したときも、来場者の多くは男性で、しかも年配の方が多かった。長い間、ロッキーを演じているところが大きいからだと思いましたね。そういった意味で『ロッキー』という作品に愛着はあるし、もちろん感謝もしていますよ」
(※6)『クリード』:『ロッキー』シリーズのスピンオフ作品。ロッキーのライバルであり、後に親友となったアポロの息子、アドニス・クリードの成長を描く。2015年の第1作(『クリード チャンプを継ぐ男』)、2018年の第2作(『クリード 炎の宿敵』)に続いて、2023年3月に最新3作目が全米で公開される予定。
『ロッキー』は羽佐間さんの代表作の1つですが、苦楽を“共にされた”はずのシルベスター・スタローンを好みじゃないとは! 次回は、羽佐間さんが声優としてどのようにスキルを修得してきたのかについて、お話を伺います。
◎第3回:羽佐間道夫さん#「アドリブのやりすぎで監督と口論。それで番組を降板したこともあったね」(11月12日18時公開予定)
(取材・文/キビタキビオ)
《PROFILE》
羽佐間道夫(はざま・みちお) 1933年、東京都生まれ。声優・ナレーター事務所ムーブマン代表。舞台俳優を志して舞台芸術学院に入学。卒業後、新協劇団(現・東京芸術座)に入団した。その後、おもに洋画の吹き替えの仕事から声優業に携わるようになり、半世紀以上に渡り第一線で活躍。『ロッキー』シリーズのシルベスター・スタローンほか、数々の当たり役を演じている。アニメーションやナレーターも多数こなす。2001年に第18回ATP賞テレビグランプリ個人賞(ナレーター部門)、2008年に第2回声優アワード功労賞、2021年には東京アニメアワードフェスティバル2021功労賞を受賞。自らプロデュースし、人気声優も出演するイベント「声優口演」の開催を15年にわたり続けている。