役者が疲れない舞台は面白くない
──中村さんが本作への出演を決めるにあたり、特に惹きつけられたのはどんなところですか?
「単純にミュージカルとして、音楽が素晴らしいです。あとは、やっぱりルードヴィヒの生き様みたいなものは、韓国版の映像を見て惹きつけられるものはありましたね。なんか面白いんじゃないかなコレって予感がしました。たぶん世間のイメージとは違うと思うんですけど、舞台になるとエネルギー放出型の俳優になるので(笑)」
──エネルギーを思いきり放出できそうな作品だと?
「うん。ほんとよくないですね。最近、疲れる仕事ばっかりしているなって(笑)。もう少し大人になろうって思っているんですけど、やっぱり自分が客として観ていると、役者が疲れない舞台は面白くないので。まあそういう性(さが)なんでしょうね。あとは自分が関わるとなったら、受け手として感じた魅力や惹きつけられるものより、もっと出さないと気が済まないので、毎回どの作品でもそのための材料を探す旅をしますね」
──本作でベートーヴェンの若き日の苦悩を表現されると思うのですが、ルードヴィヒの抱えている葛藤ですとか鬱屈した思いですとか、中村さんが表現者として作品を生み出す上で、普段感じていることに通じるものや共感できる気持ちはありますか?
「もちろん、幼い頃から音楽漬けで音楽が好きでやってきて、ある時を境に耳が不調になって、最終的には聞こえなくなるという彼の実体験と置き換わるようなことを僕は経験したことがないですし。彼のように天才というか、才能をまざまざと見せつけられる人物でもないので、イコールでかみ合うものは僕の中にはないですけど。
今回、稽古初日の本読みで、初めて台詞を声に出した瞬間に、すごくちゃんと“しんどいな”っていう感触があって。自分の中の“何か”と結びついたんだなという実感があったんですよね。それで、ささやかかもしれないですけど、絶望という種類の経験でいうと、僕もそうですし、きっと誰しも何らかの挫折とかを経験して生きていると思うので、そういうものを一生懸命拡大して結びつける作業はしています」
だから、僕はこの仕事を続けている
──今回は子役の方もいらっしゃいますが、河原さんとの7年ぶりの稽古場はどんな雰囲気ですか?
「まず、最初に子どもの歌から始まるんですけど、もう、可愛くてね。ずっと見ていたいって思うくらい、清らかな気持ちになりますね。けっこう芝居で絡みもあるので、すごく楽いし、子役の2人のカラーが違ったりするので、新鮮な気持ちでやれるというのはありますね。河原さんは……なんか同じ方向を目指しているなっていう感覚は、稽古初日からありました。同じところを面白がっているな、斜めの目で見て笑っているなというのはあります(笑)」
──あうんの呼吸ですね(笑)。では、稽古場ですごく楽しかったことや面白かったこと、逆に大変だと思うことの両面を教えてください。
「なんか表裏一体ですね。この作品中、ほとんどにおいて自分の役割はしんどいことばっかりなんです。でも、そのしんどい中で、何らかの手がかりが見つかったり、うまく周りと共有できたりすると、それがすごく楽しかったりするし。稽古なのでうまくいくこともいかないこともありますし、本番もそうだと思いますけど。でも、そのどれもが表裏一体で、面白くもあり、しんどくもありなんですよね。だから、僕はたぶんこの仕事を続けているんだと思いますけど。そういう意味でいうと、もう全部が大変だし面白い。それがこの仕事の豊かさなのかなとも思いますね」
──今回は、歌もお芝居も両方大変だとおっしゃっていましたが?
「はい、異常です(笑)。今回はほぼクラシカルな曲調で、伴奏もピアノだけだったりもしますし、それに合う歌い方だったりとか、自分の身体の楽器としての使い方という部分で、初めてのことに挑んでいます」