自分が行って、体験したことを本にして届けたい

──今回の旅のメインイベントは「マウナ・ロア」(最大の活火山)に登ることと、「カララウ・ビーチ」(片道約8時間歩いてたどり着く秘境)に行くことでしたが、この2か所を選んだ理由を教えてください。

 マウナ・ロアは、単純に“世界最大の山ってすごい!”と思ったんですよね。果てしない惑星のようなところを歩いて、自分が何を感じるんだろう、どんな景色が見えるんだろうっていうことを漠然と想像してみると、強烈に惹かれたんです。カララウ・ビーチは、マウナ・ロアの黒い溶岩とは対極の、深くて青い海を見てみたかったのと、なかなか人が行けない場所だからこそ、自分が行ってその体験を本という形で届けたいという思いで選びました。

 この本はガイドブックではないですし、“ここに書いたのと同じように行ってきてください”と提案する本でもありません。もちろん参考にしてくださってもいいのですが、それよりも、山登りに興味がない方や、登る自信はないけど、この本で疑似体験できるような冒険の旅行記として読んでいただきたいと思って描きました。

畏敬の念すら覚える「マウナ・ロア」 鈴木さん提供

──上巻に描かれている「マウナ・ロア」の章の見開きが、ほかのページとは少し違う趣で描かれているのが印象的でした。

 実はこのページはすごくこだわっていて、見開きにすることは最初から決めていました。この本を読むときに“私”の目線で進むように心がけて描いたのですが、それは読者の方が“私”に乗っかって、一緒に景色を見て、驚いて、心が動いてほしいと思っていたので、創作の漫画によくあるような、現実にはありえないような構図で描いたコマが少ないんです。それがここだけは“神様の視点”というか、まったく別のカメラから写したように描いたのは、“なんだかとてつもない山にいる”という情景を伝えたかったからです。

異なる視点で描いた「マウナ・ロア」の見開きページ 撮影/福アニー

──「溶岩以外に何もない」と書かれていましたが、その「何もない景色」から、どんなことを感じましたか?

 登っているというより、続いているという感覚でしたね。同じ火山でも、噴火した年数や種類によって登山道の形や色も変わってくるので、そういうのは面白いなと思いつつ、本当に体力を消耗するので、自分の山登り史上、一番キツかったです。

──登っている途中に、特にテンションが上がるようなこともあまりなかったのでしょうか?

 日本の山ってわりと親切で、特に北アルプスのような人気の山は、ところどころで“あと何分ですよ”と山小屋の方が設置した看板があったり、お茶が飲めるような有人の山小屋があったりとお楽しみポイントがあるのですが、マウナ・ロアは山小屋も無人で、わかりやすい人工物が途中にあるわけでもないんですよ。ただ、未知の世界にいるワクワクと”今、自分はすごい体験をしているんだな”ということは感じていました。

──そのほかに、ハワイの山と日本の山の違いはどんなところに感じますか?

 私、世界の山のことは全然知らないんですよ。こんなに歩いたのはハワイだけなので比較はできないのですが、山はその土地の人たちの信仰の対象であり、敬意を持って暮らしているということを、ハワイでは特に強く感じました。それに、火山の女神・ペレという存在が現地の人々にとっては当たり前で、みなさんが当然のこととして捉えているというのは学ぶものがありましたね。