まだ見ていない、知らない景色があることは明日を生きる希望になる

──カララウ・ビーチに行ってみたいなとは思うものの、片道8時間と知って怖気(おじけ)づいてしまって。

 私は山の高さや厳しさが価値を決めるわけではないし、楽しみ方って人それぞれで自由だと思っているので、本で疑似体験してもらって、行けないと感じたら行かなくていいと思うんです。世界は本当に広くて、まだ見ていない景色がいくらでもあるので、そのことを想像できるだけで「明日を生きよう」と思える。そういうことが伝わる本が書けたらいいなと思っています。

片道約8時間かけてたどり着く秘境「カララウ・ビーチ」 鈴木さん提供

──さまざまな理由で外出できない状況にいても、本や映像から想像して広がる世界を感じることができるし、「いつかここに行ってみたい!」という希望にもなりますよね。

 昨今のコロナ禍で、表面的には見えなくても、一人ひとりが日常の中で踏ん張って、頑張っているんだなということは私もここ3年で感じています。以前はファンの方々と一緒に山登りをするイベントを行っていたのですが、それが難しい状況になり、オンライン登山ということをやってみたところ、お身体が不自由な方や、“登ってみたいけどちょっと無理かも”と思っていた方がとても喜んでくださったんです。同じ空間や場所にいることはできなくても、景色や感動を共有して分かち合えることはできるんだなと思いました。

──鈴木さんはInstagramで毎朝、松本の空を撮影した写真を上げていますよね。

 状況が変わっても、みんな同じ空の下にいて、それがハワイにもつながっているし、日本のどの山にもつながっているということを少しでも感じていただけたらなと思って始めましたが、それが今では、私自身の勇気にもなっているんです。

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 インタビュー後編では、ハワイの人たちの自然との向き合い方や、「自分が大切にするものを堂々と大切にしながら、異なる他者の価値観も尊重する」という現代のハワイ社会にある考え方から鈴木さんがどんなことを思ったのかお聞きします!

(取材・文/根津香菜子、編集/福アニー)

【Profile】
●鈴木ともこ
東京生まれ。漫画家・エッセイスト。著書に『山登りはじめました』シリーズ(KADOKAWA/メディアファクトリー)などがある。現在は家族で長野県松本市に暮らし、松本市観光大使も務めるほか、雑誌やウェブでの連載や、テレビやイベントなどで山の楽しさや魅力を発信している。

公式サイト:https://suzutomo1101.com/
Instagram:https://www.instagram.com/suzutomo1101/