公演中は「奈落に落ちている感覚」、家業を継ぐつもりが気づけば役者の世界に

──舞台のみならず、映画にドラマと、あらゆる分野において第一線で活躍し続けている佐々木さんですが、そのすみ分けはありますか?

「2022年は舞台出演が2本で、大切にしているルーツではあるのですが、私にとって舞台は“毎日ダメ出しをもらいに行くところ”なんですね公演中は穴ぐらに入っている感じで、先のほうに明かりがあるんやろうと思うけど、ずっと奈落に落ちている感覚です。例えば、ある日“今日はいけた!”と思っても、翌日以降も本番はあるし、前回“いけた”と思ったところで失敗することもあって、でも続けなきゃいけない……。すべてへのOKが出ないまま、千秋楽が終わってしまう。だから自分が舞台の何に惹(ひ)かれているのか、わからへん(笑)。

 そんなこんなで、芝居が好きだと言う自覚はないまま、ここまで来ました。舞台には体力も必要ですから、いつまでやっていけるかわからないですし。でも、先輩たちは、膝(ひざ)の水を抜きながら舞台に立っている方もいますし、映画でご一緒した中井貴一さんは、年をとっていくことに対して努力をしているんだとおっしゃっていました。あのセリフ量を入れるのはすごいなぁと、ただただ感服しますね」

──その中井貴一さんと共演する映画で、シリーズ3作目の『嘘八百 なにわ夢の陣』が、'23年1月に公開になりますね。中井さん扮(ふん)する“目利きだけど空振りばかりの古物商”と、佐々木さん演じる“腕はいいのに日の目を見ない陶芸家”の「骨董コンビ」がタッグを組むコメディですが、中井さんとのバディ感もより強固になっていて、試写を面白く拝見しました。今回の見どころを教えてください。

僕の役はうだつのあがらない陶芸家なんですが、一生懸命、器を焼き続けているんです。その姿がなんだか味わい深いんですよね。中井さん演じる則夫とともに、いい年齢の大人がジタバタ頑張っているんです。今回は準備期間があったので、陶芸指導の先生のところにマメに通って、土と向き合う時間を満喫しました。時間が取れたので、合宿もさせてもらいました。ドロドロになりながら稽古し、そのあと先生とお酒を飲んだんです。そこで先生の話もいろいろ聞けて、とてもいい時間でした。これほど役作りの助けになったことはないですね。

 例えば、“土の声を聞け”というセリフがあるんですが、先生は、“実際、土はしゃべりませんからね。でも、土と向き合っていると生まれてくるものがある”と、ポロッともらすんですよ。“この感情、いただき、いただき!”という瞬間ばかりでした。何度も稽古を重ね、作っていく過程をすべて身体に入れたので、いざ本番となっても恐れることはなく、“どの場面でも使ってください”と言えるほどでした

──京都・洛中エリア唯一の蔵元『佐々木酒造』の跡取りとして着々と準備をされてきたのに、芝居の世界に入ったのは、やはり芝居が天職だと思われたからですか。

舞台や芝居にはまったく興味がなくて、芸能界とは縁のない子ども時代だったんですよ。毎日、酒蔵の職人さんの仕事を見て育って、家業の後継者のつもりでいたので、大学は醸造の勉強をするため農学部に進学。卒業後は、営業の修業ということで広告代理店に入社して、万全の体制で蔵元を継ぐ予定だったのに、結局、芝居の世界に入ってしまったんですね

──大学時代には劇団『惑星ピスタチオ』の旗揚げから参加されていますが、芝居とはどのような出合いをされたのですか?

「東京農大に通っていたとき、建築を専攻していた兄に“安藤忠雄さんが設計した劇場でやっている舞台があるよ”と誘われて行ってみたら、唐十郎さんの舞台で。そこで演劇のエネルギーに、とにかく圧倒されたんです。その後、大学で演劇をやっている人たちと出会い、その演劇体験を思い出して、なんとなく劇団に入ってしまったというか。それで2年生のときに『惑星ピスタチオ』に旗揚げから参加しました。でも、このときですら、役者になるとはまったく思っていなかったんです。

 その後、家業を継ぐため就職はしたものの、結果、役者の道を進んでしまいました。“役者をまだ終わらせられない”という思いが、今も続いているのかもしれませんね

「何はともあれ、気づけばここまできてしまいました(笑)」と佐々木さん 撮影/北村史成