山口大学経済学部で文化心理学を講義している武本ティモシィ教授は、東西のスーパーヒーローを対比することで、ユニークな日本人論を展開している。#1(イギリス人教授が欧米と日本の「スーパーヒーロー」を比較考察! 仮面ライダーが“変身アイテム”を持つ理由)に続き、武本教授のインタビュー#2では、欧米と比較して見えた日本人の意外な姿と、これからのインバウンド戦略について聞いた。
「日本人は個性ビンビン」!?
武本先生の東西スーパーヒーロー像の比較による独自の日本人像は、まだまだ続き、通常、言われていることとは正反対の結論へとたどり着く。
「私のゼミ生は、“われわれ日本人のスーパーヒーローはゴレンジャーしかりバトルフィーバーしかり、変身すると団結して戦うが、西洋のスーパーヒーローは単独で戦う”と指摘します。確かに日本のヒーローには個を殺した集団主義的傾向があって、西洋のヒーローは個を生かして単独で戦いますが、私に言わせると変身前は逆ですね。
クラーク・ケントもピーター・パーカーも、変身前は強烈な個性を隠して平凡なふりをする変人です。一方、日本のヒーローは、変身前のほうが個性的な変人。『仮面ライダーフォーゼ』では、主人公は短ラン(※1)を着てリーゼントのような変わった髪型をした高校生で、そんな異形の主人公が、スーパーヒーローに変身します。
※1:袖よりも着丈が短い学生服。しばしば品行不良な中高生により着用された。
僕に言わせれば、欧米と日本の本当の違いはここにある。つまり日本人は個性ビンビンで、“もっと協調性があればいいなあ”と思っている変人。欧米人は、“個性を持ちたい”と思っている常識人なの」(武本先生)
日本人はとんがった存在や性格を嫌い、個や奇抜さよりは平らかであることを尊ぶ「和の国」であるとされているが、これは間違い。日本人ほど個性あふれる変人ぞろいの国はほかにないと、武本先生は語るのだ。
これは先ほどの短ランをはじめ、紳士服にもてきめんに現れているという。西洋の服である背広は色も地味なら形も決まりきっているが、和服はバラエティ豊かだ。オーソドックスなものから、マツケンサンバを歌う松平健の衣装や、荒れた成人式で新成人が着ているギンギラギンの着物まで、奇想天外な着物を見つけることができる。しようと思えば、どこまでも奇抜に装うことができるのだ。
「つまり日本人の和は、個性ある人たちを許し合えるようにするためのもの。個性的で変人があふれる国であればこそ、和が求められ、尊ばれているわけなんです」(武本先生)
欧米人は生家跡には行きたくない。草しかないから
さて、武本先生が言うように、日本が個性的な変人であふれる国ならば、欧米とはまったく異なるものや発想の宝庫でもあるはずだ。そうした国なら、政治経済、あるいはインバウンドの需要取り込みまで、アピールすべきものや方法も異なるものであるだろう。
文化心理学者であり山口大学経済学部観光政策学科の教授でもある武本先生は、こんなふうに語る。
「松尾芭蕉が『奥の細道』でみちのくを旅した昔から、偉人ゆかりの地や、生家を訪ね歩く紀行タイプの旅は、日本人が最も好む旅のスタイルのひとつとなっていますよね。
ところが僕ら欧米人にとっては、紀行は本で読むものなの。僕は山口の偉人である山尾庸三(※2)の生家跡には行きたくない。草しかないから。彼の人生が知りたかったら本で読む。草が生えているだけの場所なんて、足を運ぶほどのものでもないのに、日本人は行きますよね。
※2:1837~1917年。萩藩士・山尾忠治郎の次男で明治期の政治家。「日本の工学の父」と呼ばれる。
#1でも言ったように、これは欧米人の言葉で自己認識する言語の民族にあるのに対し、日本人はこころの鏡に映すことで自己認識する映像の民族だから。実物を見て、こころの中にある山尾庸三の生家跡というシンボルと照らし合わせたいんです」(武本先生)