売れるために必要なのは、順番待ちしないこと
──翔さんを見ていると、当時から活躍されるような片鱗があったと思いますが……。
「商業音楽の世界では、自分は才能、ルックス、すべてにおいてプロになれる要素がないことがわかりきっていたので。当時、ランマ君や松(白鳥松竹梅・ベース)がやっていたバンドはめちゃくちゃいいバンドだったんですよ。だけど“彼らですら、誰にも知られることなく消えていくだろうな……”っていう想像ができた。おそらく数年間ぼんやりとバンド活動をして、何を残すわけでもなく実家に帰っていくのだろうと。ただ、そういう才能があるのに、自分たちの表現の仕方がわからない人たちのために、僕がマネージャーにでもなったら何かを変えられるのでは? と思い始めていたんです」
──音楽的才能ではなくて、プロデュース力の部分ですよね。
「音楽をやる連中には、中2病、高2病、あと大2病っていうのがよく見受けられるんですけれど(笑)。そういうものに縛られて、結果的に世の中に何の爪痕も残さずに消えていくミュージシャンがたくさんいるんですよね。逆に言えば、大した才能もないのにコミュニケーション能力やプロモーション力の強さで、そこそこ売れるっていうパターンもたくさん見てきた。だから、どういう方向性で行くか悩んだんです」
──自分のバンドをやるか、プロデュースするかで迷ったのですね。
「ランマ君たちのバンドをプロデュースすれば、うまくいきそうな気がしたけど、結局僕自身がバンドをやりたいっていう気持ちを捨てられなかったんですよね……。でもバンドをやるとなると、多くのものを捨ててからじゃないとまた同じ結果になってしまうと思ったんです。(突然思いついたように)あっ、つい最近、静岡にライブを観に行こうと思ったんですよ。僕は計画性がないのでいつも行き当たりばったりで、思い立ったらすぐ行くんです」
──……はい。
「案の定、日曜日の品川駅は新幹線の切符売り場の窓口が死ぬほど並んでいた。ただ、券売機は空いていて。でも、そこ(品川駅)まで『Suica』のアプリを使って行ってしまうと、新幹線のチケットは窓口でしか買えないんですよ。券売機には人が並んでいないのに、券売機は『Suica』のカードじゃないと使えない。こんなにアプリを推進しているのに、矛盾したシステムだなって思って(笑)。あと10分で新幹線に乗らないと発車しちゃうのに、窓口の列が進まなくて、“これはもう絶対に無理だろうな”と思ったんです」
──結局、ライブには間に合ったのですか?
「次の新幹線を調べたら、開演時間の10分前に着く電車が見つかって。その駅からはタクシーで会場まで行けば間に合うので、『スマートEX』というアプリ(注:東海道・山陽・九州新幹線のネット予約サービス)をダウンロードして、そこから切符を購入して観に行けたんです。つまり、ちょっと機転を利かせれば行列に並ばなくてもいいことって、実はたくさんある。バンドもそう。人気の行列に何十年も並んでいても、一生順番は来ない」
──先ほどの話につながるわけですね。
「例えば、僕らが憧れたバンドで言ったら、BLANKEY JET CIY、Hi-STANDARD、eastern youth、GUITAR WOLFがいて……あ! みんなスリーピースだ! って、それは置いておいて(笑)! 僕たちは同じシーンの中で、みんなぎっしり並ぶんです。彼らと似たような音楽や、ファッションをまねして。もう全然、前が見えないくらい大行列ですよ。僕はもう“この人たちみたいにはなれない”っていうことを己に言い聞かせていましたね。これは重要だった。カッターナイフとボールペンで自ら腕にタトゥー入れるぐらいしないとね。“おまえは違うよ”と(笑)。ときどき、勘違いするからね(笑)」
──でも氣志團や翔さんに憧れている人もいると思います。
「たまに、“俺もああいうロックヒーローになれるかも”って勘違いする瞬間もあるんです。人生において、何度も何度もあるんですけど。そのたびに、見えないタトゥーを思い出して“お前は選ばれていない”って言い聞かせているんですよね。ただね、みんな、俺ぐらいには誰でもなれるよ。マジで。トンチひとつで綾小路 翔にはなれます(笑)」
──翔さんは謙虚なのでは……。
「たぶん、彼らロックヒーローはこう言うと思うんです。“俺たちだって選ばれてないよ”って。でも、そうじゃない。その言葉に踊らされちゃいけない(笑)。だから俺たちは、自分たちにしかできないことをやる。僕らを求めてない人たちからしたら、いい迷惑でしょうけど(笑)」
──今のようにプロとして活動できることに対しては、どう感じていますか?
「ただ、氣志團で生きていく、ということだけは確固たる目標というか、早い段階でそうならなきゃいけないって思っていましたね。当時のロックバンドがよく言う“メジャーに行きたい”っていうのとも違っていたというか。氣志團のスタートは歌詞も歌もないインストゥルメンタルバンドで、華やかでキャッチーな音楽ではなかった。そこにポエトリーリーディングが乗ったり、奇声を上げるとか、必要のないメンバーがいるとか、傍目にはわけがわからない状況だったんです」
──でも氣志團の登場は、ルックスとともにインパクトがあったと思います。
「あのころの氣志團は、誘われれば何にでも参加していたイベント・ビッチだったんですが、頭に辞書をのせて、哲学みたいなことを連呼しながら松明(たいまつ)を持ってステージを練り歩く前衛的な劇団のパフォーマンスを見て、“なんだ? アレ?”とか言ってたけど、今思えば同じ穴のムジナだったと思う。そこからスタートして25年。思えば遠くへ来たもんだ、ですよね。世間からしたら“まだ氣志團やっているんだ?”みたいな感じなんだと思うかもだけど(笑)。でも“俺たちはロックバンドを基軸にした、元祖2.5次元地下アイドルなんだ!”っていうのに原点回帰した瞬間が、今回のアルバムにつながりますね」