「氣志團万博」の自身の出演料はゼロ! それでも続けるワケ

──「氣志團万博」では、バンドだけではなくアイドルや演歌など幅広いジャンルのアーティストが出演されています。普段から、どのようにアンテナを張っているのですか?

僕はお芝居やお笑いでも、少しでも気になったら生で観に行かずにはいられなくて。好奇心だけで生きているんですかね。たとえば狂言とかもね、知識もルールもマナーも知らずに観に行ってしまうんです。そういえばこの前は『bpm』っていうエンターテインメント・ユニットのお芝居を観に行ったんですが、あまりにも面白くて感動しました。面白すぎて凹みましたね。あとはちょっと前だとBUCK-TICKを静岡に観に行ったり、NEWSを仙台まで観に行ったり……楽しかったなぁ。素晴らしいステージを探しに旅をすることがいちばんの幸せです

──『氣志團万博2022』は、氷川きよしさんや香取慎吾さんなどバラエティー豊かな出演者でしたが、プロデューサー業は大変ではなかったですか?

「観に来てくださっている皆様や、出てくれている人たちの力だけでやっているので、僕なんかそれにがっつり乗っかっているだけでして。他人のふんどしで相撲を取ることに関しては横綱級です。すみませんホント……」

──MCでは「フェスをやってもあまり儲からない」とおっしゃっていましたが……。

本当に、自転車操業とはうちのことですね(笑)。“全部、来年の万博で返しますんで”って頭を下げているんですよ。借金取りからの逃げ方のそれですからね。僕らも1円ももらっていないですからね

──翔さんはフェスグッズのプロデュースをされたり、出演者のブッキングなどもされていますが、ご自身のギャラはゼロなのですか……。

「それでも全然足りないっていう(笑)。ただ、自分らの働きは、日本の音楽文化に対する寄付や支援だと思ってますよね。みなさんも『氣志團万博』へのお金は世のため人のためだと思ってもらえれば(笑)。でも音楽を止めてはいけないって思いますね

綾小路 翔さん 撮影/山田智絵

──最後にお聞きしたいのですが、翔さんは、ライブ中に水を飲まないと言っていましたが、今も飲まれないのですか?

「90年代後半のライブハウスって、何かスカしたバンドが多くて。うつむきながら独りよがりの演奏をして、1曲終わるたびにハアハア言って、後ろ向いて水飲んで。やっと口を開いたかと思ったらライブの告知。何月何日どこどこ、何月何日どこどこ、そして知らん名前の友達バンドの、知らんタイトルの企画をちょっと得意げにボソボソ告知。で、“ラストは新曲です! 聴いてください!”……知らんがな! って憤っていたんですよね。ライブハウス店員だったから特に。そんなバンドばっかりだった。

 なので、氣志團を始めるときに、“ロックの女神様、もしいるなら聞いてください”、“僕はどんなに激しいライブをしてもマイクでハアハア言いません”、“ライブ中によくわからないタイミングで水を飲みません”、“会場にいる人達にとって、知りもしない新曲を演奏した後に、今の新曲でした、みたいなくだらないMCはしません”、“だからどうか、僕が神聖なるステージに上がることを許してください”と誓ったんです。なので今も水を飲まないし、全力で歌い踊った後もハアハア言いません」

──水を飲まれないのは心配ですが、その熱意はライブを観て伝わってきます。

才能のあるバンドはいる。選ばれたやつもいる。そいつらはこの屍(しかばね)たちを超えてゆけと。しかし俺たち氣志團の使命は、ロックを利用したクソ野郎たちを消す、連中を一掃するために生まれたんだと。マスターベーションみたいな出し物で800円から1200円のチケット代をむしり取ろうとする不届きなバンドたちを、このライブハウスから1匹残らず駆除するために生まれたんだと。そして“最後は俺たちもおまえらと一緒に消えるから”っていう。そんな哀しくも潔いテーマで始まったんですよ。氣志團なんてバンドはね……(笑)

──氣志團は消えないでほしいですが……。

不思議ですよね。こんなご時世にわれわれみたいなバンドが存在することが。ときどき深夜の牛丼屋とかでふと思うんです。“俺、こんなニッチなバンド一本で今日まで生きて来たのか。この生き馬の目を抜く音楽業界で。この大東京で。しかし今更だけど牛丼と紅生姜って合うな。うわ〜幸せだな~”と。すべてはファンのみなさんと、心優しきバンド仲間たちのおかげですね。あれ? なんか最後かなり強引にいい話っぽくしてすみません! このインタビュー、こんな内容でよかったですか?(笑)」

  ◇   ◇   ◇  

 終始、笑いが絶えないインタビューから一転、撮影でのロックスターの風格を感じさせる佇(たたず)まいは、「カッコいい!」のひと言。唯一無二のアーティスト・綾小路 翔の躍進はまだまだこれからも続いていく。

(取材・文/池守りぜね)

氣志團のニューアルバム『THE YANK ROCK HEROES』※記事内の写真をクリックすると、商品の紹介ページにジャンプします

《PROFILE》
綾小路 翔(あやのこうじ・しょう)
1997年に千葉・木更津で結成されたロックバンド「氣志團」のボーカル兼リーダー。2001年にメイジャーデビューを果たし、『One Night Carnival』『スウィンギン・ニッポン』などヒット曲を連発。2012年からは地元の千葉県で大規模な野外イベント「氣志團万博」を主催し、ほかのフェスとは一線を画するラインナップで多くの音楽ファンの支持を集めている。アーティスト活動のほかにも、DJや執筆、プロデュースなど幅広いジャンルで活躍。