相手の機嫌はいちばん顔色に出る。気を遣われて育った人は空気が読めない?

──相手の機嫌などは、どういう部分やニュアンスから感じ取ったりしますか?

やっぱり、いちばんは顔色かな。それこそ、キッチンで母ちゃんが何か作っているときの横顔ひとつとっても、機嫌がいいときと悪いときで、漂う空気感が全然違うんですよ。機嫌が悪いと、何か飛んでくるし(笑)。そっとしておくべきか、何を求めているのかなど、相手の微妙な表情の動きで読み取る力は普通の人より備わっていると思います」

──空気を読めないタイプの男性もいますよね。

育ち方だと思う。周りから気を遣われて育ったタイプは、鈍感になりがちですよね。もし自分に子どもがいたら、締めつけるような育て方をしたくないから、“ここで頭ごなしに怒っちゃいけないな”とか、俺のほうが子どもに気を遣います。そうやって育てられた子って、無意識だとしても“大事にされて当たり前”って思っている部分があると思うから、(相手の)感情に気づきにくいのかと」

──確かに、そういう側面もありそうですね。降矢さんは、かなり冷静沈着なイメージですが……。

「そうですか? 俺はすげえキレやすいけど(笑)。でも興味が湧かない相手に対しては、まずキレないです。自分が向き合いたい人にだけ、何かあればブチギレるって感じ。キレるにも、相手に対してここまで本音を出して大丈夫かなっていう信頼関係が必要ですよね

「JP[W]1」開店前の店内の様子。おしゃれなライトに照らされた深紅のソファがセクシー

26歳でとび職からホストの世界へ。「今は素の自分でいられる仲間ができた」

──最初は建設会社に就職したとのことですが、ホストになる前は、歌舞伎町に対してどのようなイメージがありましたか?

「あまりいい印象はなかったんですよね。とび職をやっていたころはずっと、“なんであんなやつらに金を使うんだよ”、“俺らのほうがすごい”って思って生きてきました。でも、このままとび職を続けていても、この職業でこれ以上稼ぐことはできないし、同じような仕事を一生繰り返すだけだと面白くねえなって思ったんです。かといって、中卒でできる仕事ってなんだろう……って考えたときに、“ホストしかねえじゃん”って気づきました」

──180度違う業界への転職ですが、怖くはなかったですか?

「26歳での転職でしたが、もとが技術職だったので、1、2年ぐらい仕事を離れたとしても、万一のときはまたとび職に戻れるっていう自信があったんです。ジョブチェンジに対しての恐怖がまったくなかったから、異業種に飛び込めました

──ホストを始めたあと、辞めたくなったりしませんでしたか?

「1年半くらいがむしゃらに働いて、売り上げが上がってきたころに、“俺はまだホストを知らないし、別の世界を覗いてみたいな”って思って、ほかのグループのホストクラブに移籍したんです。その店で働いていたときは、最後のほうに辞めたくなりましたね」

──具体的な理由やエピソードはありますか?

「何が大きかったかっていうと、やる気が起きなかったんです。移籍した店は、もとの店の系列から来るホストをちょっと小バカにする感じでした。それにムカついて、“じゃあ俺がやってやる”って思って、一番を取るために一生懸命、頑張ってきた。実際、月間売り上げナンバーワンの座も手にしました。

 でも正直、周りにずっと仲間がいなかった。本当に孤独に走り続けて、ある日、一瞬で周りがすべて敵に見えてきちゃって、お酒が入ったときに店内で暴れてしまい……。自業自得ですけど、それでやさぐれて、辞めたくなったんですよね。そのころに、前のホストクラブの同期に“そろそろ戻ってきてもいいんじゃない”と声をかけてもらったんです。それで気合いを入れ直して前の店に戻ってから、どんどん売り上げを伸ばしていきました

──とび職からホストになってよかったことって何ですか?

稼げるようになったっていうのも大きいですが、それよりも人間関係。今は、本当に大事な仲間がいます。これまでは人の顔色をうかがって生きてきたけれど、やっと素(す)の自分でいられる。子どものときに言えなかったわがままを言わせてもらっている感覚です。仕事上、寝られない日が続くとか、お酒をたくさん飲まなきゃいけないとかキツいことも多いものの、仲間がいるのは幸せな状態ですよね」

──ホストになったことで、素の自分で生きられるようになったのですね。

「たぶん、子どものころに築きたかった人間関係ってこういう感じなんだろうなと思います。こちらが無理に何かを与えたりしなくてもいい。どんな自分であっても、周りのみんなが受け入れてくれる。他グループへの移籍から戻ってきて、ここで最初に出会った仲間たちと切磋琢磨するうちに、彼らが本当にありがたい存在なんだと気づきました」

──もしかしたら、降矢さんの中で早く大人になりすぎて経験しなかった部分を、ホストになって取り戻されているのかもしれないですね。

「そうだと思います。だからずっと大人になれないのかもな(笑)」

「JP[W]1」のVIPルームに飾られた超高級ラインのお酒たち。これを注いでもらえる勝者になるには、いったいどれほどの努力が必要なのか……