トイレそのものだけでなく、その“人間ドラマ”にひかれたと語る佐藤さん 撮影/伊藤和幸

──TOTOが日本にウォシュレットを広めるうえで、どんなことに取り組んだんですか?

「TOTOのウォシュレットは1980年に発売されたのですが、 “トイレは汚く、けがわらしいものである”という文化が根強くある中で、ゴールデン帯にあえて自社のCMを流したんです。旧態依然とした“トイレ=汚い”から、“トイレ=洗う”という文化を根付かせるのは、世の中に別の価値観を差し込むことになる。今はウォシュレットの普及率が80%を超えていますが、当時のそんな状況下で“おしりだって、洗ってほしい。”というキャッチコピーでCMを流す決断をしたのがカッコいいなと。何か正しいことをしようと思ったときに、世の中をちょっとざわつかせる取り組みは必要なんだと感じましたね」

──番組きっかけでトイレの魅力を知り、その後はどんなことから始めたんですか?

「番組を見た翌日すぐ、新宿のショールームに行きました。そこからトイレの歴史を知り、技術革新を知り、各メーカーの企業努力や世界情勢とトイレとの関係も調べると止まらなくて(笑)。一方で、“小学生が学校でトイレに行くとからかわれる”とか、トイレによる節水の問題とか、日常生活に密接に絡んでいるゆえの問題意識も芽生えるようになりました

──現在『佐藤満春のトイレ学』、『トイレの輪』と多くの書籍を出版されるなど、その魅力を発信していますが、もともと何かにハマりやすいタイプだったんですか?

「いえ、好きなものはそんなに多くなかったし、ここまでハマることもなかったですね。ただ自分、結構お腹が弱いほうで、昔からトイレにいる時間が長かったんです。人見知りで友達も少なく、学校にも居場所がない。そうなると、究極のパーソナルスペースってトイレぐらいしかないんですよね。自分にとって居心地のいい場所だったからこそ、ここまで夢中になれたのかもしれません」

佐藤満春さん著『トイレの輪 ~トイレの話、聞かせてください~』(集英社文庫)