自分を変えるきっかけに

 おてつたびを通して旅行者の受け入れを希望する事業者は観光業と農家が4割ずつを占め、残り2割は飲食店などの小売業やイベント関連。登録者が安心して働ける環境であるかを審査したうえで、同社のサイトの求人募集ページに告知されます。

 仕事内容は旅館の従業員や農作物収穫のお手伝い、空き家をリノベーションする実働スタッフなど多岐にわたり、降雪地域の雪かきや町の催事スタッフといった、時節に特化した募集も少なくありません。

宮城県石巻市で、漁船に乗って早朝からワカメの刈り取りをする「おてつたび」の参加者
島根県日野郡で、キャンプ場で使うための薪を割る作業に励む女性
富山県の山間にある老舗旅館のスタッフとしての仕事も
北海道の広大な農地でブロッコリーの収穫をお手伝い

 2023年1月時点で900件もの受け入れ事業者がある中には、こんなケースも。

「(登録者の方の)プチスキルを生かせるような、困り事を解消できるお手伝いもできたら……とは会社設立時から思っていたのですが、最近そういった募集も増えています。例えば長野県のリンゴ農家さんからは“プレスリリースを書いてほしい”という依頼もありました。リンゴの収穫作業以外にもプチスキルを生かせる。そんなシナジー(相乗効果)が生まれてきていていいなと思いますね」

おてつたび先での登録者同士の交流も盛んという。「10代の大学生と70代の登録者の方同士が仲よくなり、一緒に観光地を周ったり相談し合ったりしているようです」 撮影/松島豊

 一方で、おてつたびに登録している人の数は3万人にも上り、多くは20代の学生ですが、ほかに元教諭、キャビンアテンダント、セミリタイアした70代など、年齢も職種も幅広い層が集まっています。

新規事業を考えている企業の方や、車中泊や自転車で日本一周している方も登録されています。

 登録者の方の人気が集中する地域というのは特にないのですが、“おてつたびに参加してみたい”という方は一定数いますね。知らない地域との出会いを求めて、タイミングを見計らって参加する方が多いようです」

 おてつたびへの参加で人生観が変わったという声も。

「おてつたびした先にそのまま就職した方もいます。自分が住んでいるところから離れて、いろんな人と出会ったり地域や産業と触れたりすることで、価値観や進路が広がりやすくなるのかなと思います」

 同社のサイトには過去の参加者のレビューが掲載されています。

「一人で過ごすほうが好き、という東京の大学生さんが北海道のブロッコリー農家さんにおてつたびした際、いろんな人との出会いや地域の人と出会って変わることができたという感想を論文みたいに書いてくれました。

 あと、精神的に不安定になって休学していた19歳の看護学校の女性が、同じように休学しおてつたびに参加している学生の記事を読み、自身も参加を決意。おてつたび先での人との出会いが自信につながったと話してくれました」(広報の園田稚彩さん)

 自分を変えるきっかけとしておてつたびを利用する。地域だけでなく登録者自身の活性化にもなっています。

サイト内の「体験記」には、参加者たちの熱い思いがびっしり
おてつたび先募集の告知には「力作業の分量」や「年齢・性別層の割合」などが記載。「虫の多さ」の項目を設けているあたりにも細かい配慮が