大人気曲「夏色のナンシー」は、出産後の30代以降で一気に愛おしくなった

 そんな早見の最大人気曲は、やはり「夏色のナンシー」となった。'83年4月に発売された5作目のシングルで、当時、本人が出演する『コカ・コーラ』のCMソングに起用されたことで、オリコンをはじめ各種ヒットチャートに本作でTOP10入りを果たした。当時、この曲以前に発売された3作のシングル「Love Light」「アンサーソングは哀愁」「あの頃に もう一度」がいずれもマイナー調だったこともあり、一気に爽快感が広がったように感じられた。

「これは、コカ・コーラのタイアップが先に決まっていたんですね。それで、まずはサビの部分だけをレコーディングすることになって、デモ音源の入ったカセットテープを“来週までに覚えてきて”と言われて渡されました。さっそく聴いてみたら、出だしから明るくて、まさに『コカ・コーラ』のイメージどおりハジけた楽曲で、とても気に入りました! だから、それがたくさんの人にも届いてうれしかったです

「夏色のナンシー」ジャケット写真の中でほほえむ早見さんもうれしそう!

 そういえば、ネット上には“早見がコーラス部分の英語が文法的にありえない、と怒って自分で考えた”といったウワサがあるが、ご本人に尋ねたところ、真相はやや異なるようだ。

「きっかけは『Love Light』の英語バージョン(『LOVE-LIGHT』)の文法が間違っている、とファンの方に指摘していただいたことなんです。それ以降、私も敏感になって、英語の部分はディレクターさんと話し合って自分でチェックするようになりました。それで、この歌の英語コーラスも、私が少し変えさせてもらったんです。でも、怒って変えた、ということではありません(笑)」

'83年、爽やかな白の衣装を身にまとって「夏色のナンシー」を歌唱する早見さん。大ぶりな髪飾りもよく似合う!

 早見には、オリコンTOP10入りシングルが10作、その他にもディスコを中心にヒットした「ハートは戻らない」など、実際にはたくさんのヒット曲があるのだが、テレビの懐メロ番組では「夏色のナンシー」が披露されることが圧倒的に多い。そういったことに対し、本人は葛藤もあったのだろうか。

正直に言うと、20代のうちは『夏色のナンシー』をライブでもあえて歌わないほど避けていました。当時は、“もう10代のころの歌じゃなくて、等身大の今の私の歌を聴いてほしい”と思っていたんです。ファンの方も“あれっ、『夏色のナンシー』は歌わないの?”って不思議だったかもしれませんよね。今から考えると、とても申し訳なかったなと思っています。

 でも、30代になって出産し、初めて長期のお休みをいただいたとき、ラジオからスティーヴィー・ワンダーの曲が流れてきて、瞬時に12歳の思い出が蘇ってきて気づいたんです。“ああ、ファンの方はこの懐かしさを味わいたいんだ!”って。楽曲って、それをよく聴いていたころに瞬時にタイムスリップさせる魔法を持っていますよね。そう気づいたら、『夏色のナンシー』がより愛おしくなってきて。

 だから、“育児が落ち着いて音楽活動を再開したら、もう絶対に『夏色のナンシー』を歌おう!”って決めていました。そこから何回も歌っているうちに、このメロディーラインが素敵だなとか新たな発見も多くて、(作曲を担当した)筒美京平先生のすごさにも改めて気づきました

 そんな強い思いも重なっているのか、テレビやライブなどで聴く近年の『夏色のナンシー』は、アイドル時代を超えるほど楽しそうにハジけて歌っているように聞こえる。

ランキング表を手にとり、「おもしろ〜い!」と隅々まで目を通してくれた 撮影/伊藤和幸