──だんだんとクイズから流行歌の世界にハマり込んでいくわけですね。
「そうそう。当時から最新のヒットチャートを追いかけることがもう習慣になってましたね。ただ当時はバスケ部にも所属していたので、超忙しかったんですよ。だから、時短しながらヒットチャートをカセットにダビングするために“イントロだけ聴いて曲名と歌手名を把握する”という行動をしていたんですね。無意識的に」
──なるほど~。
「それで日常的に曲のイントロだけを聴くようになり、だんだん頭の中にイントロのデータベースが構築されていくわけですよ。
そんな中、法政大学のサークル全体でクイズ大会をしたんですが、自分がイントロクイズだけバカ勝ちしたんですよね(笑)。20問くらいあったんですけど、18問くらい早押しで勝っちゃったんです。それで先輩に“お前、さすがに何かしてるだろ”と(笑)」
──(笑)。
「それで“君はクイズ全般は平均レベルだけど、イントロクイズだけ異常に強いから”ということで、イントロクイズだけをしているグループを紹介してもらったんです。
一般的なクイズって文字情報で答えを判断しますが、イントロクイズは耳で聴いて判断します。曲の情報と反射神経が問われる分野なので、必要な技術がまったく違うんですよね。それでクイズサークルより向いていると判断してくれたんでしょう」
──そこから、よりイントロ寄りの生活にシフトしていくわけですね。
「はい。大卒後はサークルの先輩が勤めていた会社に入社しました。それが、当時『着メロ』を販売していた会社だったんですよ。だから自ずとヒットチャートの曲を聴くことが習慣になるわけです」
──なるほど。その結果、就職しても流行歌を聴くような生活になるわけですか。
「はい。サラリーマンをしながらイントロクイズの練習は続けていて、'08年に全国大会で優勝しました。
それがきっかけで『ひみつの嵐ちゃん!』(TBS系)という番組に呼んでいただき、嵐のメンバーとイントロクイズ大会をしたんですよ。するとありがたいことに話題になって、今はイントロ関連のお仕事をいただけているという感じですね」
編曲者・船山基紀さん「イントロがうまくいった曲は8割5分成功する」
──なるほど~。着メロ懐かしいです(笑)。でも当時の着メロってサビだけを切り抜いたもの、というか。イントロが流れるものは少なかったですよね。
「そのとおりです。逆に"失って気づく"というか……。イントロがないことで、“イントロの大切さ”がわかったんですよね。
その会社には結局13年も在籍してたんですが、働いているなかで“サビだけ切り取って売る着メロは音楽への冒涜(ぼうとく)だ”と言われたことがあるんですよ。
当時は販売する側だったので“何じゃい。そんなことないわい”って思っていたんです(笑)。でも、今考えるとそのとおりだと思いますね。曲において、イントロって本当に大事なんですよ」
──具体的になぜイントロは大切なんでしょう。
「イントロは正式名称でいうとIntroduction、つまり“紹介”じゃないですか。要するに、アーティスト・楽曲のコンセプトを“こういうものだよ”って示す部分なんですよね。小説でいうと書き出しですし、デザインでいうとアイキャッチです。つまりリスナーが離れないように作曲家・編曲家が心血を注いで作る部分なんですよね。
以前、私がすごく尊敬している編曲家の船山基紀さん(※)とお話しする機会があったんですが“イントロがうまくできたら、その曲は8割5分成功する”とおっしゃってて。そのときに“自分がイントロを信じてきたのは間違いじゃなかった”と思いましたね。この出来事は、自分がイントロの研究を続けられている理由のひとつだと思います」
※船山基紀:編曲者。C-C-B『Romanticが止まらない』、クリスタルキング『大都会』、郷ひろみ『お嫁サンバ』、沢田研二『勝手にしやがれ』、少年隊『仮面舞踏会』、渡辺真知子『かもめが翔んだ日』、King & Prince『シンデレラガール』などの編曲を担当。
──なるほど。自己紹介だとすると、声質や歌唱力といった「声」だけじゃなくて、コード進行など、楽曲自体の個性が強いアーティストは、特にイントロを重視するとも考えられますね。
「その傾向はあると思います。逆に声が特徴的なアーティストはイントロがない"歌い出し"で始まる曲が多いです」