情念渦巻くシェイクスピア作品。ネガティブな感情との向き合い方は?
──一昨年は『ジュリアス・シーザー』でアントニーを力強く演じました。シェイクスピアの劇を潤色した舞台への出演も増えていますが、どんな印象を持っていますか?
「セリフを理解するところからハードルが高いなと。もともとが外国の言葉で書かれた劇でかつ時代も古いですから、現代の言葉遣いに慣れている私たちにとっては、血肉になるように落とし込むのにすごく頭を使いました。でも劇中でうごめく感情が理解できると、舞台での表現がすごく楽しくなってきます」
──モナは三宅健さん演じる亜牟蘭オセロの妻(恋人)で、原典の『オセロー』ではデズデモーナにあたる人物です。オセロに嫉妬したイアーゴーが流した嘘(うそ)から不幸が始まっていく筋書きは本作でも共通していますが、松井さんはデマや嘘などのネガティブな情報にはどう接しているでしょうか。
「あることないこと言われやすい職業でもあるので……疑いは晴らして、自分の正当性を認めさせたい、と思うタイプではありますね。でもそれだけではなくて、自分と違う考えを持っている人がどうしてそう考えるのか、知りたくなることはあります」
──デマや嘘は否定したいけど、論破や説得よりも相手のことを理解してみよう、と。
「今の世の中、膨大(ぼうだい)な情報が日々流れていると思うのですが、気になったニュースは賛否両論に接してみるんです。両方の考え方を知りながら、私自身はフラットでどちらの意見にも与(くみ)しないんですが、“なぜこの人たちは自分と違う感情を持ってしまうんだろう?”と気になってしまうんですね」
──『オセロー』でも描かれるような、嫉妬の感情に囚(とら)われそうなときはどうしていますか。
「嫉妬は“期待から来る失望”だと思っています。例えば誰かに何かをしてあげたのに見返りがない、と恨むのはこちらが勝手に期待して失望しているからですよね。相手にしてみれば私が何を考えているかも知らないわけで。
他人の感情や行動をコントロールすることはできないと割り切って、見返りを求めなければネガティブな感情から離れてメンタルも安定するのかなと思います」
──ほかに、ネガティブな気持ちになってしまうときはあるでしょうか?
「ネガティブというか……お家の中にいるととにかく怠惰に流れてしまうかも(笑)。インドア派というわけではないんですが、自宅だと仕事モードにはなれないですね。何もしないまま時間が過ぎて、台本を覚えるのも億劫に感じたり、ということはよくあります」
──人間、どうしても後ろ向きになったり暗い感情に囚われることもあるかと思います。でも今回演じるモナは、純粋で人を疑うことを知らない存在で、松井さんにとってもまっすぐ表現を究めていける役柄のような印象を、お話を通じて受けました。
「最近はクールで感情に流されない役が多かったので、挑戦は多くなりますね! 劇団☆新感線はファンの方も多いカンパニーで、客演としての参加にはなりますが、稽古場で吸収できるものは何でも体得して、客席のみなさまが上演中目いっぱい楽しめるものをお届けするつもりです。その気持ちで毎日を歩んでいます」
(取材・文/大宮高史)
《PROFILE》
松井玲奈(まつい・れな) 1991年7月27日、愛知県出身。2015年にSKE48を卒業後、役者業を中心に活動。近年の主な出演作は舞台『歌妖曲~中川大志之丞変化~』(‘22年)、『ジュリアス・シーザー』(’21年)、『オリエント急行殺人事件』(‘20年)、『DISTANCE TOUR』(‘20年)、映画『よだかの片想い』(‘22年)、『幕が下りたら会いましょう』(’21年)、『ゾッキ』(’21年)、『半径1メートルの君~上を向いて歩こう~』(’21年)、ドラマ『どうする家康』(’23年)、『広域警察』(’21年)、『プロミス・シンデレラ』(’21年)など。
●公演情報
劇団☆新感線43周年興行・春公演
Shinkansen faces Shakespeare
『ミナト町純情オセロ~月がとっても慕情篇~』
【原作】ウィリアム・シェイクスピア(松岡和子翻訳版「オセロー」ちくま文庫より)
【作】青木豪
【演出】いのうえひでのり
【キャスト】亜牟蘭オセロ:三宅健 亜牟蘭モナ:松井玲奈 三ノ宮一郎:粟根まこと 汐見丈:寺西拓人 沙鷗アイ子:高田聖子 ほか
【日程・会場】
東京公演:2023年3月10日(金)~3月28日(火)東京建物Brillia HALL
大阪公演:2023年4月13日(木)~5月1日(月)COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール