『LANAI』の名づけ親は早見自身。ランクインして特にうれしかった曲は?

 では、ここからはSpotify第17位から大量にランクインしているアルバム収録曲について語ってもらおう。多くのアーティストの場合、1、2枚のアルバムの中に人気曲が偏る傾向にあるが、早見の場合は、前回語ってもらったデビュー・アルバムの『AND I LOVE YOU』以外にも、早見の最大ヒットアルバム(オリコン最高5位、累計売上約10.2万枚)である『LANAI』から、オリコンTOP100にはチャートインしなかった『Moments』まで、当時のセールスとは関係なく、ほぼまんべんなく聴かれている。これも、早見優の作品だからこそ信頼して聴くリスナーが多いという何よりの証拠だろう。

『LANAI』からは『Rainy Boy』(第17位)も入っていることが、めちゃくちゃうれしいです! このアルバムのタイトルを考える際、収録された4曲を提供してくださった筒美京平先生が“自由につけていいよ”ってディレクターさんにおっしゃったんです。それで、ハワイというコンセプトがあったので、私がラナイ島から“LANAI”とタイトルをつけた思い出がありますね

『LANAI』のジャケット写真。温かみのある背景と白Tシャツがハワイを連想させる

『LANAI』は、シングル「夏色のナンシー」がヒットしていた'83年の初夏に発売され、陽気なサウンドや歌声が魅力的だ。『LANAI』同様に人気曲が多いのが、同年末に発売されたアルバム『COLORFUL BOX』。こちらは、レコーディングの際にのどの調子が最悪だったそうで、'12年の30周年BOXのインタビュー時にも“最もやり直したい作品”と本人が語るほどだった。ただ、力んだ歌唱が少ないことや、冬の発売ということもあってか、夜や宇宙を感じさせる内容となっている。

「確かに、23位の『AZIES』は “SEIZA”の逆読みなので、間違いなくスペイシー路線ですね(笑)」

 第24位の「ダウンタウン・チャーミング」は'86年のアルバム『Burning illusion』に収録。当時、“学園祭クイーン”と呼ばれた白井貴子が作曲を手がけただけあって疾走感が心地よい。

「これは、“ライブでもっと盛り上がれる楽曲が欲しい”と思って作ったアルバムですね。ほかにライブと言えば、第30位の『Mr.J』! これは、最近聴き返していて、好きな曲だな、今度ライブで歌ってみたいな、と思っていたところなので、この順位にランクインしていて、とてもうれしいです」

 収録されているアルバム『Shadows of the knight』からは'86年当時、辻仁成作詞・作曲の「風になれ」や佐野元春作詞・作曲の「彼はデリケート」がテレビなどで披露されていた気がするが、今、ストリーミングサービスで最も聴かれているのが、このミディアム調のロックンロールそして、それを偶然にも早見が“最近、あらためて聴いて好きな曲”と言い、ここでもその感性の鋭さに改めて驚かされる

『Shadows of the knight』のジャケット写真はタロットカード片手に遊び心ある構図だ

 そして、さらに本人が喜んだのが、'88年のアルバム『Moments』から3曲もTOP50に入っている点だ。

「当時、“もう歌は売れないからアルバムは作れないよ”と宣告を受けていたんですよ。だから、こうして今でも聴いていただけているのは、すっごく幸せです! このころ、ようやくアーティストとして、レコーディングの進め方と自分の声の出し方が一致したんですよ。“遅いぞっ!”って(笑)。中でも、バラードの『BEYOND THE WORDS』は作詞家の吉元由美さんと四谷の喫茶店で直接打ち合わせをして作っていただいたので、特に思い出深いですね

「わー!お気に入りの『BEYOND THE WORDS』もランクインしているんですね!」と、うれしさをあわらにする早見さん 撮影/伊藤和幸