入れ替わるように『ガンダム』の時代に
その後も松本零士先生原作の映画は作られたが、劇場版『999』のような大ヒット作は生まれなかった。
・『銀河鉄道999』(1979年・129分・配給収入16億5千万円)
・『さよなら銀河鉄道999 アンドロメダ終着駅』(1981・135分・配給収入11億5千万円)
・劇場版『1000年女王』(1982・121分・配給収入10億1千万円)
・『わが青春のアルカディア』(1982・130分・配給収入6億5千万円)
次のブームをつくるテレビ版『機動戦士ガンダム』(1979)は、すでに始まっていた。安彦良和さんは『ガンダム』の第1話の放送を、『ヤマト』の会議の席で話を止めて見たという。「オレの気持ちはもうこっちなんだよ」という意思表示だったという。くしくもその日は『ヤマト2』の最終回の放送日でもあった。
『ガンダム』はテレビ版の放送終了から間もなく劇場版三部作(1981~1982)がハイペースで公開され大ヒットしていく(ちなみに、配給元の松竹は総集編1本のつもりでいたが、1作目のヒットによって三部作の公開が叶った)。
・劇場版『機動戦士ガンダムガンダム』(1981年3月・配給収入9億3千7百万円)
・『機動戦士ガンダムII 哀・戦士編』(1981年7月・配給収入7億7千万円)
・『機動戦士ガンダムIII めぐり逢い宇宙編』(1982年3月・配給収入12億9千万円)
中学生になっていた私も当然のように『ガンダム』に夢中になった。
令和の若者へ
ちなみに、訃報を知らせるニュースの内容だけでは、あたかも松本零士先生が『宇宙戦艦ヤマト』の原作者だと誤解しかねないが、1999年、著作権を争った裁判で西崎義展さんに敗訴。控訴中の2003年、法定外和解している(両者著作者ではあるが、松本零士先生は原作者ではなく設定・デザインのみ、筆頭著作者は西崎義展さんで合意)。悲しいことだが、その後に公開された『ヤマト』の実写映画(2010)や新作アニメ(2012~)に松本零士先生の名前は表記されていない。
松本零士先生の本質は自伝的作品の『男おいどん』や『戦場まんがシリーズ』などの漫画作品にあるという人もいる。それでもアニメ作品は、たとえ一端であっても、松本零士ワールドをメジャーへと押し上げ、そのロマンと感動を長野県の田舎の子どもはもとより、世界中の人々に届けてくれた。
幸か不幸か『宇宙戦艦ヤマト』は今もつくり続けられている。『ガンダム』もしかりだ。これを是か非かを決めるのは今も昔も、メッセージを受け取った私たちだと思う。最近よく昭和ブームだと聞くが、ぜひ、令和の若者にも松本零士作品に触れてほしい。私は喪に服して部屋にこもり、また劇場版『999』で松本零士ロマンの旅に出たいと思っている。
※3月6日〜13日の期間限定で、劇場版『銀河鉄道999』がYouTubeの「東映アニメーションミュージアムチャンネル」で無料公開中です。
(文/フリーライター・春原恵)
【プロフィール】1966年生まれ。漫画編集、週刊誌編集を経て現在はフリーの編集・ライター。子ども時代は『ウルトラマン』『仮面ライダー』『マジンガーZ』が好きで、その後『ヤマト』『ガンダム』『マクロス』『エヴァ』にハマった。好きな漫画は、上條淳士『TO-Y』、尾瀬あきら『初恋スキャンダル』、新井英樹『ワールド・イズ・マイン』など。好きなアニメーターは、金田伊功、谷口守泰、梅津泰臣など。ドラマは山田太一脚本作品、特に『ふぞろいの林檎たちII』が好き。映画はジェリー・ブラッカイマー、プロデュースの超大作が好物。