『出没!アド街ック天国』(テレビ東京系)の高円寺の回でも特集されたタウンマガジン『SHOW-OFF』。芸人やバンドマンなどが表紙を飾り、グルメ情報やインタビュー、コラムなど読み物も充実。しかし『SHOW-OFF』はデザイナーやライター、カメラマンなど有志のボランティアで作られています。近年は広告も減りましたが、印刷費のみで制作され、無料で配布されています。

 そんなふうについつい協力したくなってしまう高円寺という街の魅力とは? 前編に続き、『SHOW-OFF』を発行する有限会社HOT WIRE GROUPの代表取締役で、編集長も務める佐久間ヒロコさんにお話を聞きました。

★『SHOW-OFF』とは?
 2000年11月創刊のフリーペーパー。年4回発行の季刊誌。高円寺にゆかりのあるミュージシャンや芸人などのインタビューやコラム、高円寺のカルチャー、ショップ紹介といった読み物が充実している。編集・発行はイベント制作やデザイン制作など、地元・高円寺を活性化する事業を展開するHOT WIRE GROUPが行う。主な配布場所は高円寺のカフェ、古着屋、ライブハウスなど。

『SHOW-OFF』は捨てたくないフリーペーパーにしたい

──『SHOW-OFF』には決まったコンセプトなどあるのですか?

「特にコンセプトはないんですよね(笑)。でもスタッフはみんな高円寺が好きなので、高円寺を頭の片隅に置きつつ書いているのかなっていう気はしますね」

──フリーペーパーとはいえ、持ち帰らないと読み切れないような情報量ですよね。

「そうなんですよ。作り手からするとフリーペーパーやチラシが捨てられているのって、すごく切ないじゃないですか。それがすごく嫌だったので、“絶対捨てたくない”って思うようなものにしたいって思いがありました。それが私たちのいちばんのコンセプトかもしれないですね

──休刊したことはなかったのですか?

「コロナ禍の2020年に1回だけあります。取材スタッフもいないし、取材できる場所もない。今回だけ休もうといって休刊にしました。23年間やっている中で1回だけですね」

2000年の創刊から2023年3月まで89号を発行 撮影/fumufumu news編集部

──ここまで続けてこられた原動力は何だと思いますか?

やっぱり『SHOW-OFF』にかかわってくれている人たちの力が大きいんですよ。デザイナーに関しては、2号目からずっと同じ人が本業の合間を縫って、毎回やってくれているんです。カメラマンも3〜4人いますが、みんなノーギャラでやってくれている。それだけみんなが協力してくれている中で、ぶっちゃけもう辞められないというのもあります

──これからの目標とかありますか?

「『SHOW-OFF』はこのスタイルでずっと続けていくんだろうと思います。見てもらうとわかるように、今は広告が全然入ってないんですよ」

──広告が入らなくなった時期は、いつからですか?

「いつから入らなくなったのかは覚えていないんですけれど(笑)。結構な金額の広告費をもらうと、向こうからの条件とか要望が多くなるじゃないですか。それでだんだんと広告を減らして、今はもう一切、有料広告はないですね

──こちらの下部分に入っているお店の紹介は広告ではないってことですか?

「関係者なのでお金をもらっていないんですよ。ギャラの代わりに無償でイベント告知などを載せています。今はどこからもお金をもらっていないので、好きなことを書けるんですよ(笑)

何かを始めるのなら長く続けること

──長く続けていく中で、大事にしていたことなどありますか?

私の場合は、何かを始めるときに“続けたい”っていう気持ちがすごくあるんです。1回だけイベントをやるというなら、みんなやりたがるし、エネルギーもある。私も偉そうなことは言えないけれど、“イベントをやりたい”って相談されたときは、“続ける気持ちがあるの?”っていう意志確認はしますね。1回だけ、打ち上げ花火的にバーンってやって終わりでいいのだったら、そういうやり方もあるんでしょうけれど。やはりずっと続けていくためにはどうしたらいいのか考えますね」

──具体的に、続けるために意識していることはありますか?

スタッフ各々にやりたいことをやってもらうようにしています。『SHOW-OFF』はノーギャラでやってもらっているのに、やりたくないことをやれっていうのは無理な話ですよね。あとはお互いの気持ちがつながっていくことを大事にしています。みんな好き勝手なことをやっているのに、1冊になるとなぜかまとまっている。だから読み手は面白いんじゃないかな」

──そこらへんのゆるい感じが、高円寺なのかもしれないですね。

デザイナーやライターもそうですが、スタッフに“また作りたい”って思ってもらえることに、ずっと助けられている感じがします。あとはきちんとやっているプロの方からお叱りを受けそうですけれど(笑)、ゆるいから続けていけるのかな。連載を書いている方が“今回はちょっと嫌だな”って感じれば、別に休んでもらっていいし、また書きたいときに書いてもらえればっていうスタンスなんです」

『あさひなぐ』などで知られる漫画家・こざき亜衣氏も『SHOW-OFF』で漫画を執筆していたそう! 撮影/fumufumu news編集部

バンドマンの街からオシャレ女子が集まる街へ

──2000年の創刊当時の高円寺の様子は、現在とは違っていますか?

2000年くらいまでは高円寺に若い女性が来ることはほとんどなかったと思います。当時の高円寺にはライブハウスか、居酒屋か、ヴィンテージやアメカジを扱う古着屋しかなかったんです

──高円寺にいる若者のタイプも変わってきていますか?

そのころ私が出店した『HOT WIRE CAFE』は、“こんなオシャレな店が高円寺にできたんだ!”ってセンセーショナルだったんですよ。店の中にターンテーブルがあってDJができたり、アメリカンダイナーみたいに間接照明やネオンサインがあったり。この後に、高円寺にどんどんカフェができたんですね。当時は『Planet3rd』(注:高円寺店は閉店)という有名なカフェカンパニーの店も人気でしたね」

──赤ちょうちんの居酒屋から、カフェへ。若者文化も、どんどん変わってきたのですね。

圧倒的に街に女性が増えましたよね。2010年代になって、きゃりーぱみゅぱみゅのような『高円寺ファッション』と呼ばれる全身パステルカラーを着た女の子が増えてきたんです。昔はパンクバンドの服装をした人が多かった。2009年に高円寺の居酒屋で火災が起きたんですが、そのビルにはライブハウスも入っていて、そこがなくなってからパンク系のライブハウスやスタジオが徐々に減っていったんですよね……。代わりに女性たちが集まるようなキレイめのお店やコーヒースタンドが増えてきました」

──確かに以前は、ギターケースを背負ったバンドマンが闊歩(かっぽ)しているイメージでした。

「そうそう。駅前にある『大将』っていう焼き鳥屋さんは、当時は“金髪でギターケース持っていると入店お断り”って書いてあったから(笑)。それだけバンドマンが多かったんですよね。今はもう全然ウェルカムみたいですけど」

高円寺の変化を肌で感じできた佐久間さん 撮影/fumufumu news編集部

『高円寺フェス』の常連・みうらじゅんと大槻ケンヂは1年後の出演も確約

──2011年から『高円寺フェス』を主催されています。こちらのフェスの開催のきっかけは何でしたか?

『SHOW-OFF』を作っている仲間たちと、“高円寺でフジロックを!”っていう合言葉から始めました。当時は夢みたいな話でしたが、もしやるのなら野外の音楽イベントをやりたいっていう気持ちがあったんです。『高円寺フェス』の大元となったのは、高円寺ではなくて『新宿Club ACID』(現在は閉店)でいろいろなバンドのドラマーたち14人を集めた公開取材だったんですよ」

──そのイベントから、高円寺フェスへの流れになるのですね。

結局、朝から晩までロックを流し続けるイベントを街中で行うのは(街のために)どうなんだろうって考え始めました。やっぱり老若男女みんなが楽しめるようなイベントにしないといけない。地域に愛されるイベントになるようにと思って、『高円寺フェス』を始めたんです

──1回目はどのようなイベントでしたか?

「当然、今みたいな大きな規模ではないので、まずイベントに出店したい店を集めて、1店舗5000円ずつ参加費を出してもらいました。76店舗から集まった38万円を資金に、お笑いステージをやったり、ストリートライブや屋台を出したり。そんなイベントを始めたんですよね」

高円寺フェス公式YouTubeチャンネルで公開されている「第16回 高円寺フェス2022」の記録動画。楽しい雰囲気が伝わってくる!

──みうらじゅんさんや、大槻ケンヂさんを始め、プロレスや周辺地域のカレー専門店の出店など、多彩なジャンルのイベントですよね。

みうらさんや大槻さんは、もう10年以上『高円寺フェス』でそれぞれトークイベントをしてくれているんです。彼らは毎年10月の最終土日を空けてくれていて。収益のあるイベントなので、きちんとギャラはお支払いしています(笑)」

高円寺のゆるキャラ「サイケ・デリーさん」炎上事件

──『高円寺フェス』では、ゆるキャラと呼ばれるキャラクターたちも集結しています。高円寺にもゆるキャラがいますよね。カレー屋の多い街にちなんだ高円寺の公式キャラクター『サイケ・デリーさん』(2014年に一般公募した『高円寺商店街連合会公式キャラ募集』で、890の応募作の中から最終的にみうらじゅんさんが決定した)の評判はいかがですか?

実は『サイケ・デリーさん』(以下、デリーさん)が去年の夏に大炎上しちゃったんです……。フリーアナウンサーの田中みな実さんと一緒にテレビ番組に出演したときに、デリーさんが彼女の手を舐(な)めたんです。デリーさんに舐められると『ペロペロハッピーパワー』で幸せになれるんですよ

高円寺のゆるキャラ「サイケ・デリーさん」 撮影/fumufumu news編集部

──インパクトのあるゆるキャラですね。

田中みな実さんが台本どおりに口に手を入れたので、デリーさんも台本どおりに舐めたんです。4年も前の出演だったのに、去年、なぜかその部分だけ切り取られてSNSで動画をアップされたんです。そこから、大炎上につながってしまって。デリーさんを運営している会社として謝罪文を出して対応しましたし、昨年の『高円寺フェス』にも出演させるか迷ったのですが、人を舐めないようにして出ました。お客さんの中には“頑張れよ”って言ってくれる方もいました」

──今は一度炎上すると火消し(話題が収まること)は大変ですよね……。

「動画をアップした人には、みな実さんを困らせたいという意図はなかったんですよ。単純に、このキャラヤバくない? みたいな気軽な感じだったみたいです。その動画ではデリーさんは若い女性が好きというようなことを言われていたけれど、関係者のみ知りえる事実としてそんなことは絶対ありえないと断言できます!! 人の思い込みって怖いですよね

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 高円寺の魅力をたっぷりと語ってくれた佐久間さん。そのまっすぐな生き方に元気づけられた人もいるのでは。高円寺に行ってみたくなったら、ぜひ『SHOW-OFF』を街中で探してみてください。

(取材・文/池守りぜね)