「愛が止まらない」は30分で完成「Winkへの思い入れがないまま書きました」

 そしてSpotify第2位は、彼女たちがブレイクするきっかけとなった3rdシングル「愛が止まらない」(フジテレビ系ドラマ『追いかけたいの!』主題歌)。こちらは、670万回再生となっているが、原曲のカイリー・ミノーグ「TURN IT INTO LOVE」は約180万回と、Winkの人気にカイリー版が引っ張られている形となっている。ちなみに発売当時も、及川がつけた“愛が止まらない”というタイトルでカイリー版がシングルをリカット、つまりWinkに便乗する形でヒットしていた(なお、このタイトル使用料は及川には入っていないとのこと)。

「愛が止まらない」のジャケット写真は背景も服装もシックで大人びた印象

 それにしても、♪かさなりあった目の甘い罠~♪走り出した愛に 理性のバリアは効かない~、など、ずいぶんとオトナな歌詞で攻めている印象だ。これはどういった経緯で生まれたのだろうか。

実は、このときはまだWinkの顔も年齢も知らないで書いているんです。ドラマの主題歌になることが決まって、2人組という情報だけでカイリー・ミノーグの原曲を聴きながら書いたから、大人っぽくなったんでしょうね。しかも、私のマネージャーが“この作詞の仕事はコンペだから(頑張ってくださいね)”って、ウソをついたんですよ。私は、コンペだったら絶対に獲れないと思って、力まずに30分くらいでパパッと書いたら、それが採用になりました

 及川には、コンペには通らないというジンクスが長年あるらしく、その理由が最近、自分なりにわかったそうだ。

「コンペって、パラパラと紙をめくって何百曲もの歌詞を見るでしょう? そうすると、私の詞って、字面が悪いようなんですよ。だから、(文字だけ見て判断する)コンペは通らないと思っています。これまでも、紙で見たディレクターに“これはないんじゃないの?”ってしょっちゅう言われていて。でも、そのまま1回歌ってもらったらバッチリで、“ごめん、完璧にハマったね”って言われるんですよね。だって、私は曲に合わせた歌詞を書いているんですから(曲にのせたらピッタリなはずなんです)。

『愛が止まらない』のときも、この類のコンペだと思っていたので、Winkをどうしたいとか、どう感じたとかいう思い入れは一切ないまま書きました。だから、ディレクターに見せたら“うわぁ~、大人っぽい歌詞だ~”と。次のシングルの『涙をみせないで〜Boys Don't Cry〜』も外国曲のカバーで、(彼女たちを意識せずに)曲調に合わせて書きました。そのあとのアルバム(『Especially For You〜優しさにつつまれて〜』)では、Winkに合うかどうかを試行錯誤しつつ何曲か書いて、作詞の時点で彼女たちをより強く意識したのは、その次のシングル『淋しい熱帯魚』あたりですね

 確かに「愛が止まらない」ではWinkとしては大人の色気が過多にも思えるし、「涙をみせないで」は、Winkとしてはやや不自然なほど明るいし、「淋しい熱帯魚」で彼女たちをバッチリ言い当てたという話にも納得がいく。

 さらに、これらのカバー曲とオリジナル曲の作詞には大きな違いがあるそうだ。

「Winkが歌った海外のカバー曲は、単発の報酬で買い取ってもらっていて、もう私に権利はないんですよ。つまり、『淋しい熱帯魚』は、いろいろな形で印税が発生していますが、『愛が止まらない』はどんなにヒットしても、誰がカバーしても、もう私には一切入りません(笑)。

 でも、日本のオリジナル曲であろうと、英語曲であろうと、そこに日本語をのせるのが得意なのは、それ以前にミュージカルの仕事をやってきたからかもしれません。ミュージカルってポップスだけじゃなく、クラシックやオペラから、先日、日本語詞を担当した『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』のようなハードロックまで、いろんなジャンルをやらなくちゃいけない。その中で、感性に関係なく、職人としての作業に徹することができるので、ミュージカルの仕事はとても好きですね。そうして生み出したものは、私の中では、“poem”でも“lyrics”でもなく、“music words”なんです。スタッフクレジットでも、なるべくそう表記してもらっています」

ランキング表に興味を示す及川さん。上位には及川さんの作詞曲がズラリ 撮影/山田智絵