Winkは外国曲を使いやすい状況下にあった。3〜5位の楽曲は海外で大人気に!
外国曲のカバーは、先方への許諾が大変だという話をよく聞くが、Winkがこれだけ大量の外国曲を歌えたのはなぜだろうか。
「確かにミュージカルで既成の外国曲を使用する場合は、いったん粗く日本語に訳したものをもらってから、私が音にはまるように歌詞を書きます。それを今度は、英語に直して海外で許諾を取るという作業が必要ですね。
でも、Winkがフジパシフィック音楽出版に所属していたころ使用した外国曲は、そこの管理楽曲なので、原曲を気にせずに100%日本語で作詞しても問題がないんですよ。そもそも、(フジパシフィック音楽出版は)自社管理の外国曲を二次使用したくて、Winkをデビューさせて歌わせたという側面もありますからね。だからこそ、カバー曲が続いたあとに『淋しい熱帯魚』を出したのは、(賞レースの対象外となる海外カバーではなく)日本のオリジナル曲で日本レコード大賞を狙いにいきたかったからです」
このような話を聞くと、まさにWinkは巨大なヒット・ファクトリーだったということがよくわかる。
そして、3位には外国曲のカバーで、デビュー曲となった「Sugar Baby Love」、5位には、なんと1stアルバム『Moonlight Serenade』収録のキラキラなポップス「渚物語」、そして6位には、'94年のシングル「いつまでも好きでいたくて」のカップリング曲「愛を奪って 心縛って」がランクイン(これら3曲の作詞はいずれも及川ではない)。3曲とも、日本ではそこまで大人気でないということもあり、9割前後が海外で再生されているが、それぞれ事情が異なるようだ。
3位の「Sugar Baby Love」は、'74年にイギリスやドイツでヒットした楽曲で、原曲の再生回数はSpotifyでも3000万回を超えるほど。その人気に派生して、Wink版もヨーロッパを中心とした海外のJ-POPファンに多く再生されている。
これに対し、5位の「渚物語」と6位の「愛を奪って 心縛って」は、ともに日本のオリジナル曲。前者は、シティポップに通じる陽気な曲のためかアメリカやインドネシアで人気。後者は、華美なアレンジや強めのダンスビート、それと対照的に儚げな彼女たちのボーカルが、海外のインフルエンサーを刺激したのか、アメリカやメキシコで人気と、曲によって好評な地域が異なるのが興味深い。
ここまで追ってみると、Winkが当時のみならず、今のヒット事情もかなり特殊であるということがわかった。前述のように緻密に計算されたプロジェクトだからこそ、さまざまなフックがあちこちに引っかかって、これだけ多層的なヒットになっているような気さえしてくる。
第2弾では、さらなるヒット曲の数々や、それらを手がけた及川のプロフィールにも触れていこう。
(取材・文/人と音楽をつなげたい音楽マーケッター・臼井孝)
【PROFILE】
及川眠子(おいかわ・ねこ) ◎作詞家。1960年2月10日生まれ、和歌山県出身。'85年三菱ミニカ・マスコットソング・コンテスト最優秀賞作品、和田加奈子『パッシング・スルー』でデビュー。Wink『愛が止まらない』『淋しい熱帯魚』('89年度日本レコード大賞受賞)、やしきたかじん『東京』、新世紀エヴァンゲリオン主題歌『残酷な天使のテーゼ』('11年JASRAC賞金賞受賞)『魂のルフラン』、CoCo『はんぶん不思議』等ヒット曲多数。著書には『破婚〜18歳年下のトルコ人亭主と過ごした13年間』(新潮社)、『ネコの手も貸したい』(Rittor Music)などがある。数々の歌い手に詞を提供するとともに、ミュージカルの訳詞や舞台の構成、CMソング、アーティストのプロデュース、エッセイやコラム等の執筆や講演活動も行っている。
及川眠子 会員制オンラインコミュニティサイト「知のアジト」発足!
及川眠子が気になった出来事をつづったり、会員同士で「推し」を紹介し合ったり、及川眠子とさまざまなジャンルのクリエイターが語ったりする中で、会員の“知的好奇心”を刺激し、また、人と人との新たなつながりを生み出すためのコミュニティサイト「知のアジト」が'22年に誕生。詳しくは公式サイトへ!
◎「知のアジト」オフィシャルサイト→https://chinoagito.com/about
◎及川眠子オフィシャルサイト→http://www.oikawaneko.com/
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