そもそも朝ドラの楽しみのひとつに、「常連俳優のよい芝居」があると思う。気乗りせずに見ていて出会ったときなど、
いろいろありすぎるヒロイン暢子(黒島結菜)が、いろいろを経て再開した沖縄料理店「ちむどんどん」の初日。昼をたっぷり過ぎてやっと来たお客さん第一号の役だった。沖縄そばを一口食べて「普通のと全然違うね」と言い、食べ終わって「お勘定」と言い、支払って「ごちそうさま」と言う。そして出口で少し振り返り、「あ、うまかったよ」と言う。そして1か月後に彼がもう一度店を訪ね、連れに「いやー、うまくて腰抜かしますよ」と言う。その日、暢子は最後にこうつぶやく。「知らないお客さんで満席になったー」。そういう1話だった。
なんだ、『ちむどんどん』もやればできるじゃないか。そう思えたのは、古舘さんの演技があったからだ。女子が自分の道を見つけ、歩いていく。一生懸命歩けば、見ていてくれる人はいて、必ず道は開ける。それを見せてくれるから、朝ドラが好きなのだ。古舘さん演じた通りすがりの客は、確かにヒロインの伴走者だった。ドタバタばかりしていた『ちむどんどん』だったが、この回の空気を作っていたのは、古舘さんの確かな演技だった。