私が古舘さんという俳優を初めて知ったのも朝ドラだった。『ごちそうさん』(2013年度後期放送)で「京都帝大の経済学部教授」を名乗る詐欺師を演じていた。ボソボソと経済の話をする声、昭和初期の男性が背広のときは必ずかぶっていた帽子……。とにかくカッコよかった。出演は2週間、ずっと夏という設定だったから、夕暮れの逆光がよく描かれた。その中に立つ古舘さんのシルエットが今でも目に浮かぶ。詐欺師とわかったときはこちらまでショックを受けるほどだった。

 騙(だま)した相手は、ヒロイン(杏)の夫(東出昌大)の姉(キムラ緑子)だ。彼女がとにかく義理の妹をいびりまくるのだが、その背景にあるものが浮かび上がってきた2週間でもあった。キムラさんと古舘さんの演技が哀愁たっぷりで、私にとっては幼さの目立つヒロイン夫婦より、『ごちそうさん』を代表する2人だった気さえしている。

『ごちそうさん』でヒロインの小姑を演じたキムラ緑子 撮影/近藤陽介

 そんなわけで“短期集中型”だった古舘さんだが、『舞いあがれ!』にはだいぶ長く出演した。舞一家を助ける働き者の職人で、今のところ21週が最後になっている。その週は笠巻の仕事以外の部分が描かれた。仕事一筋だったから娘とは疎遠、妻を亡くしてからは拍車がかかり、孫からも怖がられている。そんなプライベートを、気丈な振る舞いで隠す笠巻。透けて見える孤独に心が痛み、そこから一転、孫と仲良くなれたときの笑顔にこちらまでうれしくなる。哀しさと喜びが背中合わせの、目立たないけれど確かな人生。朝ドラが描く大切なものがそこにはあった。

 古舘さんという常連は、いつも朝ドラとは何かを教えてくれる。

(文/矢部万紀子)