及川、「リアルな夢の条件」の不振に納得のワケは
なお、名曲ぞろいのWinkの中で、現在シングル最下位となっているのは、‘92年発売の16作目「リアルな夢の条件」。不倫を続けるかどうかと相手に問いただすといった感情むき出しの歌詞に、ハードロック系のサウンドが乗るというWink史上、最強レベルに攻めた楽曲だが、この順位には及川もうなずけるという。
「この歌が、シングルの中で(今、)最下位というのはよくわかります。ファンの方は、Winkにそこまで過激な歌を歌ってほしくないんでしょうね。このころは、“もうWinkの仕事を降ろしてくれ”と言いながら、周りからの要望もあって、より刺激的な作品に走っていっていたんです」
とはいえ、(「真夏のトレモロ」など「〇〇の◇◇◇◇」路線が増えていった)'91年以降の及川の作品は、今注目のドラァグクイーン・ユニット『八方不美人』にも通じるような濃密なものが多いので、及川眠子ワールドが好きな人は、これを機にサブスクなどで気軽に触れてもらいたい。
中森明菜、少年隊に書いた人気曲の作詞秘話を語る
ここからは、及川がほかのアーティストに手がけた注目作について語ってもらおう。
まず、'95年、中森明菜のアルバム『アルテラシオン』に提供した「原始、女は太陽だった」「したたる情熱」「痛い恋をした」の3曲。シングルにもなった「原始、女は太陽だった」は、♪孤独という氷河をさまよった~ ♪不幸に愛された運命~ など当時スキャンダルまみれにされてしまった彼女を言い当てつつ、♪誰・誰・誰・誰も恨んでないわ~ と、なおも前に歩もうとする女性をパワフルに歌い上げた意欲作だ。また、「痛い恋をした」は、過去の恋愛を静かに振り返ったしっとり系のバラードで、こちらも女性ファンに人気となっている。
「『原始、女は太陽だった』は別の作詞家が書いた楽曲と、どちらかをシングルにするということだったので、おそらくほかの人はこういう内容では彼女には書かないだろうなというところを狙いました。歌詞は不幸というよりも、自虐も含めた開き直りですよね。シングルに決まってから言葉を変えろという指示もなかったですし、特に強い言葉を狙ったのではなく、どれも自然に出てきました。
この中では『痛い恋をした』がファンの方にいちばん人気みたいで、私も好きですよ。彼女に書いたのはこれっきりでしたが、この約20年後『残酷な天使のテーゼ』(アルバム『Belie』収録)を彼女がカバーしていたのを聴いて、より母性があふれているなと感心しました」
また、少年隊には'93年のシングル「EXCUSE」や、'95年のシングル「Oh!!」のカップリング曲「PGF」を手がけている。
「EXCUSE」は、浮気をするための言い訳を重ねまくるといったダメ男が主人公のスリリングなポップス。同年末のNHK紅白歌合戦では「服部良一メドレー」を任され、その翌年にはゴールデン・アロー賞のグランプリを受賞するなどショービズ界で高い評価を受けていた彼らが歌うには、意外すぎる選曲だ。
「当時、担当ディレクターだった羽島亨さんが、“それまでの少年隊のイメージを壊そう”と私に依頼したんですよ。羽島さんは、清純派アイドルだった中嶋美智代(現・中嶋ミチヨ)でも、“イメージチェンジさせて”と依頼してきて、私が『恥ずかしい夢』や『ちょっと痛い関係』の詞を書いたんです。Wink担当だった水橋さんと一緒で、みんなイメージを壊したいときに私を起用するんですね(笑)」
他方、'95年のシングル「Oh!!」のカップリングとして書いた「PGF」は、女性たちを前向きに讃(たた)える明るいエールソングとして、少年隊の各メンバーが行うライブでも、最大ヒット曲『仮面舞踏会』と同じくらい欠かせない人気曲となっている。こちらはむしろ、ジャニーズファン全体が求めそうな1曲だが……。
「『PGF』は、井上ヨシマサくんが作ったメロディーがあまりにストレートで、イメージを変えようがなかったですね。デモテープで“PGF、PGF”ってメロディーに合わせて歌っていたので、このまま使っちゃえ、と思って “Positive Girl Friend”って言葉を無理やり当てはめたんですよ。それが、今やジャニーズJr.の子たちが歌い継いでくれていて人気なんですよね。実は自分でも書いたのを忘れていたのですが、ジャニー(喜多川)さんが“あれ、いい曲だね”って言って、Jr.の子たちに歌わせることにした、というふうに聞いてます」
それにしても、受ける仕事のジャンルも、その歌詞の内容も実に幅広くて驚くばかりだ。
「基本的には、どんな依頼が来てもきちんとやりますよ。私は演歌・歌謡曲の作家でもないし、アニソンの作家でもないし、舞台の曲も多いけれど舞台出身でもないし、たかじんのようなフォーク系も書くし、実はロックやR&Bを聴いてきたので、そういう楽曲は大好きだし、以前はよく“あなたはいったい何がやりたいの?”と聞かれました。今の時代って、専業化して書いてる人たちが多く、私のように“ジャンル問わず書く”作詞家は少ないですね」