仕事が途切れない理由は真摯に向き合う姿 

 コロナによる海外渡航の規制が緩和されるにつれ、タイ人俳優やドラマ、映画関係者の来日が増えている。

 それに伴い、高杉さんも彼らの言葉をより深く、きちんと伝えるために、ドラマや映画を観るための時間を大幅に割き、間違いがあってはいけないため、自分が翻訳した文章をタイ人にチェックしてもらうなどと、通訳・翻訳の現場以外での下準備の時間は増える一方。

 しかし、長年タイの文化芸能の仕事に携わりたいと願い、自身も大のタイ映画やドラマファンである高杉さんにとっては、充実した時間でもある。

「仕事なのか、リアル推し活なのかちょっと区別がつきません(笑)。エンタメ分野の通訳・翻訳はそうした勉強の時間も含めてとにかく時間がかかりますし、手が抜けないですし、そして眠い。

 タイ人俳優たちがSNSに投稿した情報をファンが受け取ることを、“パンをもらう”というのですが、こうした“パン”をチェックして、俳優たちが影響を受けたという日本のドラマやアニメ、映画まで手を広げると本当に追いつきません。

 私の脳のキャパシティには限界があるので、いろいろ見たいけど、仕事の優先順位に合わせて見ているのが現状です」

 タイのドラマや映画、音楽が日本で受け入れられているという状況は、数年前から見れば考えられないことだが、高杉さんにとっては、自分がかねてから好きだったものが、ここまで多くの人の心をつかんでいることに驚き、そして大きな喜びを感じている。

「タイでは俳優たちがテレビ局に所属して、さまざまなドラマに出て知名度を上げ、演技力を磨いていきます。そんな彼らが人気と実力を獲得して、ぜひタイ映画にもどんどん出てほしいと思っています。そして、日本に来たら、私に仕事をください。これっていい流れでしょう?(笑)」

忙しい高杉さんの必需品。右のスティック状のアイテムは、タイで『ヤードム』と呼ばれ、鼻からメンソールなどの香りを嗅ぎ、気分転換を図ることができる。
現地の屋台で購入したというおもちゃ。「もう壊れて動かなくなったけど、
どこかユルくて癒やされるので気に入っています」と、高杉さん。

(取材・文/吉川明子、編集/本間美帆)


【PROFILE】

高杉美和(たかすぎ・みわ) タイ語通訳者・翻訳者・コーディネーター。タイのエンタメ領域を中心に、一般通訳を行う。撮影誘致コーディネーターとして、『STAY Saga 〜わたしが恋した佐賀〜』のドラマ制作に伴い、佐賀県への誘致に携わり、その他、東京オリンピック・パラリンピックの事前キャンプ誘致のコーディネート、現場通訳の仕事も行っている。