フォーカスされにくい人物にスポットを当てた
──美優が母親と住んでいた家、美優が引っ越した家などで散らかった部屋の描写がよく出てくるのも文野さんの漫画の特徴ですね。
人の本質がいちばん出るのって、お部屋だと思っているんです。例えば、明るくてしっかりとしたイメージの人の部屋に行ったら、思ったより整理整頓されていなくて「あれ?」と感じた経験、ありませんか?
──あります! 私も部屋がぐちゃぐちゃになりがちなので親近感を覚えます(笑)。
そうなんです。普段どんなにクールでとっつきにくく見えても、部屋を見て「あれ、いい人じゃん」って思うことがありますよね。部屋はその人の本質が感じられるもので、その存在が好きなので、いつも描きながら「このキャラだったらどんな部屋かな」と想像しています。
きっと私がドキュメンタリーが好きなことにもつながりますね。ミニシアターで見ることが多いのですが、フォーカスされにくい人にスポットを当てた作品が好きで、美優もそんな人たちのひとりだと思っています。部屋の描写を含め、そういった点はすごく意識しています。
──今聞いて、「確かに成功者はよくスポットが当たるけど、美優のような人って無視されてきたかも」と思いました。
美優はやってみたことが裏目に出てしまって何もうまくいかない人です。彼女を見た読者の方が、美術にかかわったことがなくても「共感します」と言ってくださることがあります。
私は安易に「うまくいかなくても継続したら成功するよ」とは言えないし、自分自身もそう思っていないんですけど、『ミューズの真髄』の最終巻(3巻)では挫折や失敗、うまくいかないことに執着し続ける人間の人生を描くことができたのかな、と思います。
「絶対強くなれるから自分の目標に向かって努力し続けよう!」と伝えたいわけではないし、私もまだそういった強さにたどり着いていません。でも、今まさにうまくいっていない、だけど目指すものに執着してしまう人たちはたくさんいて。『ミューズの真髄』はそんな読者の方々に向けて、「美優や私と一緒に頑張りましょう。いや、頑張らなくてもいいので一緒に歩きましょう」という気持ちで描いた作品でもあります。