地球上に片手袋のない場所はない
「片手袋を目にするのに、国や季節は関係がない」と石井さんは言います。
「人間の生活には、ありとあらゆるところで手袋の用途があり、防寒用だけじゃなく作業用やコロナ対策としても使われる。そうなると当然、それらの場所すべてで片手袋と遭遇する瞬間も出てきます。
片手袋を研究して18年ほどになりますが、僕は片手袋がない場所は地球上にはないと思っています。Googleのストリートビューでも、極端な話、家の中にいても片手袋を探すことができるんです」
「片手袋そのものというより、その背後に見えてくるものを研究するのが面白い」として、片手袋を読み解いていきます。
「もし銀座という華やかな町に軍手が落ちていたら、それはブランドの店に商品を運ぶ人や、新しく都市が生まれ変わる工事をしている人のモノかもしれない。われわれが表層だけ見て描く都市のイメージと、それを形作る裏方の人たちが存在するという、都市構造を象徴していると思います」
人はなぜ片手袋を落とすのか──自身もしょっちゅう片手袋をなくすという石井さんの回答は、人間の真理を突いたものでした。
「人間が不完全な生きものだからだと思います。お金持ちだろうが貧乏だろうが、老いも若きも男性だろうと女性であろうと、24時間常に完璧な状態でいることはできない。どこかに片手袋を落とすスキが生まれてしまうんです」
たかが片手袋、されど片手袋。道端に取り残された片手袋は、“人間は不完全だからこそ成長する余地がある生きもの”という証(あかし)なのかもしれません。
(取材・文/松平光冬)