ストイックで懐も深い、由良先輩

 サークルを見学に来た舞にいきなり怒鳴った由良先輩への第一印象は、もしかしたらあまりよくなかったかもしれません。でも、それは舞が翼に見惚れて思わず手を伸ばしてしまったから。その翼は、パイロットである自分の体格に合わせて設計された人力飛行機「スワン号」に欠かせないものであり、部員みんなが一生懸命作ってくれたもの。だから由良先輩はつい声を荒げてしまっただけで本当は誰よりも部員思いの優しい先輩なんです

 何よりも、強い覚悟でみんなの思いを背負い、日々過酷なトレーニングと減量に挑むストイックな姿勢がカッコよかった! その姿をずっと見ていたからこそ、舞はテスト飛行でケガをした由良先輩の代わりにパイロットになりたいと思えたのでしょう。普通ならそこで「新入生に自分の代わりが務まるはずない!」と反発してもおかしくないはずなのに、スワン号を作った仲間の思いを知っている舞なら記録を狙えると、その思いを託した由良先輩……カッコよすぎます。

 スワン号で空を飛んだことをきっかけに、舞が旅客機のパイロットになるため、航空学校を受験したいと言い出したときも由良先輩はその背中を押してくれました。実は由良先輩、自身もパイロットになりたいという夢を抱きながらも、158センチ以上という航空学校の身長制限を前に受験を諦めた過去があります。努力だけではどうにもならなかった壁を超えていく後輩……きっと悔しさもあったでしょう。だけど、舞の身長を聞いて「ほな大丈夫やな」と安心した顔で答えられる懐の深さもまた多くの人を感動させました

 そんな由良先輩が、のちに身長制限が緩いアメリカのアリゾナ州でパイロットとして働いていることが明らかに。鶴田先輩との仲はあれからどうなったのでしょうか。結ばれたかどうかはわかりませんが、由良先輩がセスナ機でグランドキャニオンを飛んでいるとどこかで聞いた鶴田先輩が「よかったなあ」とあの優しい顔で微笑(ほほえ)んでいる姿が目に浮かびます。