一流料亭で、お店を驚かせた“ドッキリ”
あるときは、一流の料亭でイタズラをしたこともありました。
それは、かつて勝さんが役者養成セミナー『勝アカデミー』を主宰していたときのお話。所属していた、タレントの小堺一機さんが、勝さんに連れられて行った高級料亭で目撃した話です。
勝さんは、運ばれてきた最高級の牛肉を口にした途端、それをペッと吐き出しました。
そして、いきなり、こう怒鳴ったのです。
「いつからこんなモノを出すようになったんだ! お前んとこは!」
怒鳴られた仲居さんが驚いたのなんの。
「申し訳ございません! 少々、お待ちを!」
そう言うと、逃げるようにその場を去ります。
仲居さんがいなくなると、勝さんは、周りで凍りついている小堺さんたちに向かって、ニヤリとしてこう言ったのだそうです。
「へへへっ、今の顔、見たか? 人間てのはなぁ、本当に驚いたときには、あんな顔をするんだ。よく覚えときな」
なんと、勝アカデミーの人たちに“人が驚いたときの顔”を見せるための、ドッキリだったのです。
仲居さんから報告を受けた板長が、慌てて調理場から飛んで来て、部屋の前で土下座をして、恐る恐る言います。
「何か、粗相がございましたでしょうか……」
すると勝さん、上機嫌で「いや~、いいんだいいんだ、ハハハッ」と高笑いしながら、板長に分厚いご祝儀を渡したのです。
いやはや、豪快というか、お茶目というか……。
生前の勝さんを知る多くの人たちは、「初めて会ったときから、あっという間に勝新太郎のとりこになってしまった」と語っています。
豪快なだけでなく、こんなイタズラ好きで茶目っ気たっぷりな部分もまた、人々をひきつける魅力だったのかもしれません。
(文/西沢泰生)