お気に入りの作品はジプシー・キングスの『ベン、ベン、マリア』
──これまで32年の歴史でお気に入りの作品とかあるんですか?
「そうですね……どれもおもしろいんですが、ジプシー・キングス『ベン、ベン、マリア』の“あんたがた ほれ見やぁ 車ないか… こりゃまずいよ……”という空耳は印象深いですね」
──カップルが喫茶店から出てきたら、路上駐車していた車がレッカー移動されているVTRと一緒に流れたヤツですね(笑)。
「そう。この作品が出た当時はまだひと言ネタっぽい、短尺のものが主流だったんですよ。でもこの作品はまず4フレーズにわたって連続して日本語に聴こえる。それと、何より文脈がちゃんと通っているんですよね。優れた空耳作品です。
人気の火つけ役というか……この作品から、長尺の作品が増えていき、空耳アワーの人気が出てきたのを肌で感じていました。番組のターニングポイント的な作品なのかなと思いますね」
──たしかに空耳は長尺であるほどおもしろいですし、謎の感動も生まれます。
「ですよね。それでね、僕はこの空耳作品をきっかけにジプシー・キングスが大好きになって、来日ライブを観にいったんですよ。それでライブのパンフレットを買ったら“みなさんご存じかもしれませんが、この曲の冒頭部分がこういう日本語に聴こえるんですよ。ぜひ聴いてみてください”って、空耳ネタが紹介されていたんですよ(笑)」
──え~、すごい!(笑)。深夜番組のいちコーナーが世界的アーティストの紹介文を変えてしまったんですね。
「そうなんですよ。“勝手にこんなことを紹介してジプシー・キングスは怒んないのかな”ってちょっと不安になっちゃいましたね(笑)。でもそれほど認知された空耳作品ということで、思い出も含めて、とても印象に残っています」
──空耳アワーで好みの音楽に出会えるのもおもしろいポイントでしたよね。
「そうですね。自分の趣味だけでは、ジャンルが偏ってしまうと思うんですけど、32年間、半ば強制的にいろんなジャンルを聴きましたので……。
シャンソンとかデスメタルとか南米・アフリカの民族音楽とか、自分だけでは聴かなかったと思いますね。空耳アワーがきっかけで好きになってCDを集め出したアーティストもいっぱいいます。その点は続けていてよかったところですね」
※後編では「番組終了にあたっての思い」について存分に語っていただく。
(取材・文/ジュウ・ショ、編集/FM中西)