──そのまま19年も更新し続けているのがすごいですよ。ちなみにPV数などの管理はしているんですか?

最初はしようと思ったんですけど、当時使っていたツールが無課金だと広告が出てくる仕様だったので、めんどくさくなっちゃって(笑)。

 今でも数字は追いかけていないですね。数字ばかりを追ってしまうと、釣り記事や釣りサムネみたいに邪悪さが出ちゃいそうなので。バズるための記事ではなく、自分が書いていて楽しい記事をつくるためにも数字はあえて見ないようにしています。これが長く続いている秘訣かもしれないですね」

──「自分が楽しい」は続けるうえで大事です。そしてUKさんが楽しんでいるからこそ、読者のわれわれも笑えるような気がする。

「私は虚構新聞で食べているわけではないですからね。あくまで趣味なんですよ。生活がかかっていないからこそ数字を見ずにできるのかもしれません」

文化庁メディア芸術祭で受賞し、客員教授に

──そんな中2012年に虚構新聞が『第16回文化庁メディア芸術祭 エンターテインメント部門推薦作品』を受賞します。もうなんかこの出来事自体が虚構なんじゃないか、と(笑)。

「これはね、文化庁の方から応募のお誘いをいただいたんですよ。どんな企画かも知らなかったので“ノミネート作品を水増ししたいんかなぁ”くらいの気持ちで応募したら賞をいただいて……。こんなに大規模なものだと思っていなくて、授賞式に出たときに“えっ?”って(笑)」

──当時の大賞はPerfumeの世界進出プロジェクトでした。受賞作品一覧で、虚構新聞の隣には庵野秀明/樋口真嗣の特撮映画『巨神兵東京に現わる』が名を連ねています……。そうそうたるメンツというか(笑)。

「そう。授賞式当日に“こんな大きい賞やったんや……”って驚きました。あまりに出来すぎだったので、スタッフの方にこっそり出来レースじゃないか聞いたんですよ(笑)。“違います。ちゃんと審査しています”って言われましたけど

 当時は東日本大震災の翌年で、Twitterが普及し始めた時期だったんで“拡散文化”を象徴するものとして評価していただいたようです。実際いまはTwitter経由で記事が広がることも多いので、当時の審査員の方は先見の明があったんやなぁ、と思います」

──まさか芸術的な分野で評価されるなんて、という感じですよね。一つひとつがフィクションであり創作なので、虚構新聞は立派な芸術作品だと思います。

「そう言っていただけるとありがたいですね」

──受賞してから10年、2022年からはご出身の滋賀県で成安造形大学情報デザイン領域 客員教授に就任されました。

「文化庁メディア芸術祭の関係で、成安造形大学の真下武久准教授とご縁がつながって、就任させてもらいました。真下先生は仮想と現実をテーマにしたインタラクティブ性のあるアートを創作されているので、虚構新聞に興味を持ってもらったみたいです」

──学生にはどんなことを教えているんですか?

「2022年は忙しくてあまり参加できなかったんですが“フィクションを現実っぽく見せるうえで工夫していること”について講義しました。

 例えば“写真のリアルさ”って、単純に解像度を上げて高精細になるほど、リアルさが増すってわけではないと思うんですよね。例えば"UFOが出現"というニュースを扱うとき、鮮明な円盤の写真を出すと、かえって信じてくれない。むしろ解像度を落とした白黒写真のほうに信ぴょう性を感じることもある

 要するに虚構を現実っぽく見せるうえで大切なのは、読者の頭の中のイメージを想像して、その姿を写真や文章で表現して合致させることだと思っています。必ずしも現実=リアルではない。そんな感じのことを学生のみなさんに講義しました」

──なるほど~。おもしろいです。その先に「わかる!」とか「ありそうだよね」というユーモアが出てくるわけですね。

「そうですね。冒頭のお話に通じる部分もありますが、こうした工夫によって“共感”が生まれると思っています」

※後半は2000年代~2020年代にかけて虚構新聞の立ち位置はどう変わったのか。またUKさんは虚構新聞をどのように読んでほしいのか、についてお届けする。

(取材・文/ジュウ・ショ、編集/FM中西)