目があるぬいぐるみは、すごく話しづらい

──七森というキャラクターと自分との共通点や、違う点はありますか?

 七森の考え方というか、思考の流れはわかるんですが、あそこまで繊細じゃないというところがいちばんの違いですかね。七森が「恋愛の好きがよくわからない」と言っていましたが、僕も「友達としての好き」と「恋愛としての好き」の違いは感覚的にはわかっているといえど、二つある言葉の違いをわかりやすく説明してくださいって言われてもできないので。七森と完全に違うとは言えないかなと思います。

──ぬいぐるみとしゃべるには勇気がいる、と思う人もいるかと思います。

 たぶん、七森はぬいぐるみを人じゃないけど物でもないような距離感で見ていて、まだどう接していいかわからないもどかしさもありました。劇中でぬいぐるみとしゃべる麦戸ちゃんが「この子たちの言葉は自分の言葉だから」と言っていましたが、ぬいぐるみに話しかけても、その返答って、自分が思っていることをぬいぐるみがあたかも自分に話してくれているように感じる言葉なので。話しかけることに羞恥心があるかどうかは人それぞれだと思いますが、ある種、ひとり会話のような難しさはあると思います。

──細田さん自身は、実際にぬいぐるみにしゃべりかけましたか?

 この作品をやるとなって、試してみました。ただ、目があるぬいぐるみって、すごく話しづらかったんですよね。それはたぶん、人の目と同じで発信しているものがすごく多いというか、目があるだけでしゃべらなくても通じるような気がして。僕は目のないぬいぐるみのほうが話しやすいと思うし。不思議な感覚になるんですよね。この子はいったいどういう感情で僕のことを見つめているんだろうって。その感情を想像してしまう自分がいて。

細田佳央太さん 撮影/伊藤和幸

──そうなんですね。私は登場人物の生きづらさに共感しながら、人や自分との対話の大切さを感じる作品だと思いましたが、細田さんはこの映画をどういう人に見てもらいたいでしょうか?

 世の中的にしんどくなることが多いと思うんです。ウイルスで何かがダメになったり、他国でいろんなぶつかり合いが起きたり、暗いニュースが多い中で、それを見たときに人によっては自分ごとじゃなくても暗くなる瞬間があると思います。そのときにこの作品の温かさに触れて、少しでもモヤモヤやマイナスな感情が和らいだらいいなと。

 意外と僕らくらいの若い世代のほうが人の優しさを求めているんじゃないかなって、勝手に思ってるんです。卒業や入学で新しい人と出会ったり、場所が変われば周りの人もすごく大きく変わっていく。今だと18歳で成人とはいえ、すぐに心ができあがるわけじゃないし、SNSがすごく普及して、いろんな刺激がある中で生活しているからこそ、しんどくなることが多い世代だと思うんです。もちろん、大人世代にまったくしんどい思いがないとは絶対思わないです。でも、特にそういう若い世代の人に、しんどいって思うことが悪いことじゃないし、甘える場所があっていいんだよっていうメッセージが届いてほしいと思います。

細田佳央太さん 撮影/伊藤和幸