ウイズコロナの放送スケジュールを体現

『舞いあがれ!』のマスクは風景ではなかった。すごく駆け足ではあったが、ロックダウン下のパリや緊急事態宣言下の日本で戸惑い、悩む人々の様子が最終回に確かに描かれた。貴司があっさり帰国できてしまったり、開発の遅れを懸念するアビキルも消毒と密回避で何だか事態が好転したり、ゆるいと言えば限りなくゆるい描写ではあった。だが、2020年以後の世界を描くなら、コロナ禍はなかったことにできない。そのことをはっきりさせてくれたという意味で、朝ドラ史上に名を刻んだと思う。

 そして『舞いあがれ!』はウイズコロナを体現するドラマでもあった。何かというと、’22年度の後期にきちんと放送が収まっていたのだ(’22年10月3日〜’23年3月31日)。実はこれ、’19年度後期の『スカーレット』以来で、コロナ禍による混乱を少しずつ脱却した証(あかし)なのだ

 混乱の始まりは『エール』だった。’20年3月30日の放送開始直後、4月7日に緊急事態宣言が出され、撮影が止まった。完成済みの“在庫”がなくなり、6月末から9月中旬までは初回からの再放送をし、最終的には10話減らした全120話を11月27日まで放送した。以来、『おちょやん』が11月30日〜’21年5月14日、『おかえりモネ』が5月17日〜10月29日、『カムカムエヴリバディ』11月1日〜’22年4月8日、『ちむどんどん』が4月11日〜9月30日に放送された。大幅から小幅にはなったものの、年度とのズレが残っていたのだ。

『エール』で夫婦を演じた窪田正孝と二階堂ふみ 撮影/北村史成