通勤・通学、あるいは休憩時などにスマホで動画を観たり、音楽を聴いたりする方は多いことでしょう。
でも、いざカバンやポケットからイヤホンを取り出したら、有線コードが絡まっていて、ほどくのに手間がかかる……なんて経験も多いのでは?
なぜイヤホンのコードは絡みやすいのか? 絡まないようにするための対処法はあるのか? 謎を検証すべく、お茶の水女子大学教授の下川航也さんに聞きました。
コードが長ければ長いほど結び目ができる
「数学上においては、ひもを結んだ際にできるコブ状の結び目を研究する“結び目理論”というのがあります。ひもをどんどん長くしていくと、必ずどこかに結び目ができてしまうという定理が証明されているんです」
ひもの端をつなげて閉じた輪にしたものを、数学における「結び目」としており、ポケットの中でひもが複雑に絡み合ううちに、結び目ができる確率が高くなる……というのが結び目理論としての答えになるそう。
「結び目理論は、18世紀ぐらいから(ドイツの数学者の)ガウスによって意識されてはいたんですが、本格的に研究が始まったのは100年ぐらい前からです。原子の仕組みがどうなっているのかを説明するために、ひもの結び目を使っていた時期がありました。その後、結び目そのものが面白いとして、数学者たちが分類するようになりました」
結び目理論を研究する方は全世界にいるそうで、「日本でも研究集会があれば、多いときは100名ぐらいの方が集まります」。
結び目のパターンの一部を絵で説明していただきました。結び目の絵を描いた際にひもが重なる数を「結び目の交点数」と呼び、大きな数字は交点数、小さな数字は交点数内の結び目の種類を意味するそう。
「例えば1回結ぶと3₁のような形になりますが、もっと工夫すると8₈のように交点数が8つある『はちはち』になります」
結び目のパターンは今では10億個ぐらいあり、それぞれ分類されているそうで、多くには名前がついているそうで、3₁は「三葉結び目」、交点数がない0₁は「自明な結び目」と名づけられているのだとか。
複雑に絡まった結び目が、なんだかアート作品にも見えてくるから不思議なもの。
「結び目を題材にした展覧会が開かれたり、数学を使って絵を描くといった美術活動も行われていますよ」