ゲーム雑誌『CONTINUE』のVol.0(2001年3月発売)から続く、吉田豪さんと掟ポルシェさんの長期連載をまとめた『電池以下』(太田出版)。『掟ポルシェ編』『吉田豪編』の2冊が発売されており、声優からプロレスラー、果ては秋元康さんとあらゆるジャンルの著名人インタビュー集です。おふたりだからこそ聞き出せる一面や衝撃的なエピソードが満載で、読む手が止まりません。
前編に引き続き、プロインタビュアー・プロ書評家の吉田豪さんと、「ロマンポルシェ。」のボーカル&説教担当でライターの掟ポルシェさんに、好きなことを仕事にするために必要なことや、掟さんが始めた結婚相談所についてお聞きしました。
掃除のおばちゃんと仲良くなって、学長の暴露本を作成
──おふたりはよくご自身の名前でエゴサーチされていますが、悪口が書かれていたらヘコみませんか?
掟:へ? 俺、あんまり悪いものはないですよ。
吉田:悪いのあったじゃん。ロマン優光(「ロマンポルシェ。」のメンバー)と間違えられて怒られちゃったり(笑)。
掟:文面をよく読んで雑な勘違いだとわかったら反応するまでもないしね。あと、そういうのはさ、その人が普段どういう内容をツイッターに書いているのか見ればいい。そうすれば、まともな人物のまともな指摘か判断できるでしょ。
吉田:コンビニスイーツのプレゼントしかRTしていなかったりとかね。
掟:あれ、人間じゃないからね。人間もどき。
吉田:ツイートが全部、有名人へのリプの人もいるね。
掟:批判的なことを書いてる人の普段のツイート内容がロクなもんじゃなかったら、そもそもアレな人の言うことだから発言自体になんの説得力もないし。普段、まともなことを言っている人のまっとうな批判だったら反省することもなくはない。でも、悪口は批判と違って具体性に欠けていて、核心をついていないんで。バカは悪口も下手なんですよね。
吉田:そういう人格のないアカウントからの批判は何のダメージにもならないですよ。
──吉田さんは、専門学校時代にも学内のウワサ話を集めた冊子を作ったという話を聞いたことがあるのですが。
吉田:掃除のおばちゃんと仲良くなったら、いろんな話を教えてくれた程度の話です。「聞いてよ、この前、学長の愛人の家に掃除に行かされたのよ」とか。
──その当時から、インタビュアーを志されていたのですか。
吉田:志とかはなくて、単純に学校や人気教師への反発みたいなものがすごくあった。そんな中で親しくなった教師から「何号館は違法建築で看板が出せないんだよね」とか、「うちの学長、地上げで2回捕まっているんだよ」って聞いたら、「えっ!」ってなるじゃないですか。今みたいにネットがない時代だったから、友達10人集めて図書館に行って、まったくヒントもない中、新聞を一つひとつ調べて学長の事件の記事を探し出したんですよ。
──ジャーナリズム精神を感じます。
吉田:それで暴露本のような卒業制作を作ったら、それまでの年は全員分を美術館に展示していたんだけれど、ボクらの年から代表者のみの展示になって。ボクらは自ら美術館に本を置きに行きました。ジャーナリズムというよりは、ただの嫌がらせの話です(笑)。
軽視されるジャンルの魅力を伝えていく仕事
──世の中的には、どうしても仕事には忍耐や我慢というものが必要と思われている節があります。好きなことを仕事にしていると、周りから理解されにくいということはありませんか?
掟:好きなことしかしていないからいいんじゃない。周りからどう思われるか考える必要はないですよ。
吉田:ボクが好きなことをして稼げているのは、自分の中でパラメータをすべて好きなことに振っているから。だからこのジャンルの中ではそれなりに成功しているし、闘えている。ボクは結婚もしないかもしれないけど、そういう部分で満たされる必要はないって考えています。ボクがほかのことで満たされちゃったら、今ついているファンが離れていく自覚がある。たぶん、裏切られた気持ちになるだろうって思うから。
──おふたりは、それまでは一般的ではなかったアイドル文化の魅力を広めたと思います。
掟:少し前までは、大人が若いアイドルを好きになることってすごく恥ずかしいことだった。十数年前までは周りからいい顔をされないものだったもんね、アイドル文化なんかは。その魅力をちゃんと伝えて、恥ずかしいものではないって認められるように頑張ってきたっていう気持ちはありますね。
吉田:あのころ、すべてと闘っていた掟さんたちをボクはなんとなく遠巻きに眺めていたくらいだったのに、気がついたらみんなアイドルから離れていった。結局、今はボクがそこに残されているっていう。
──豪さんがモーニング娘。に夢中になった人たちをインタビューした『証言モーヲタ 〜彼らが熱く狂っていた時代』(白夜書房)も、一般論では計り知れないようなエピソードが載っていますよね。
吉田:みんなおかしかったからね(笑)。道を踏み外した人たちの証言集だから面白いんですよ。今のアイドルヲタクって、そこまでじゃない。社会性があるんですよね。
掟:社会性があってもアイドルオタクが成り立つものになったからね。われわれはおかしかったけど。
吉田:アイドルは音楽の中で差別されるし、タレント本も読書という枠組みの中では軽視されがち。そういうものを、どう評価するか。スポーツ的なジャンルから外れたプロレスもそうですよね。
掟:プロレスが真剣勝負であるかどうかはどうでもよくて、魅力はそこじゃない。今はちょっとそういう世界じゃなくなったけど、ちゃんとしていないものがパッケージ化されているのが面白かったりしたんですよね。プロレスラーのデタラメな人間性が試合に反映されたりして、そういうのをすごいなと思いながら眺めたり。俺たちは一般的な価値尺度で計り知れないものの魅力を咀嚼して伝えていくっていう仕事ですよね。
──豪さんのトークイベントでは、会場にいる観客以外にも多くの方が配信を視聴しています。その理由は何だと思いますか?
吉田:それはもう信用を重ねていく作業をしているだけです。「この人のイベントは課金したらそれ以上の価値がある」っていう期待を裏切らない活動を続ける。
──なかなか簡単なことではないと思います。
吉田:ボク、ほかの人のイベントにかなり課金しているので、わかるんです。本当にお金の価値にまったく足りていないイベントが山ほどある。ちゃんと相手の懐に踏み込んだり、ゲストの魅力を引き出すことがどれだけできるか。ゲストのトークが足りなかったら、ボクが身体を張って余計なことを言いまくる。ちゃんとバランスを取って観客が得した気分を得られるようにしているんです。
掟さんが始めた「サブカル好きのための婚活」とは?
──本やCDなどコレクションなどは、どこまで収集したいと思っていますか?
掟:2008年に自宅が火事になって家にあったものが結構焼けちゃってから、コレクションはやめたんですよ。好きなアーティストの物は全部持っていたいって思っていたけれど、その気持ちが一回折れたんでしょうがない。『セーラーズ』(80年代を中心に人気を博したブランド)の服も8割焼けちゃいましたから。
──火事になったときに、豪さんの家に一時的にいらっしゃったんですよね。
吉田:いろいろと掟さんがヤバいってなっていたから、「うちの事務所を使う?」って言って、しばらく住んでいたんです。
掟:本当にありがたい話ですよね。
吉田:掟さんを泊めた結果、今使っているボクの事務所には掟さんの犬がつけた傷があるんですよ(笑)。基本的にはペット不可のマンションなのに、犬が堂々と出入りしていたけど。
掟:せめてカバンに入れてよ~って思うよね。特殊な事情があったんですみませんってことで!
──掟さんが奥様と始められた結婚相談所(縁むすび セキレイパートナーズ)が話題です。なぜ結婚相談所を開いたのですか?
掟:嫁(日下ゆにさん)は占い師なんですが、俺が去年、体調を崩したときに今後のことを占ってもらったんです。そうしたら『恋人たち』のカードが出て、「結婚相談所を始めたらいい」っていう結果になったのがきっかけ。掟ポルシェ業は基本的にバカでくだらないことをやってるわけで、そんなの年寄りになってやってたら哀れに思われるだろうし、数年後にはなんかカタギの仕事しないとダメだよなとずっと思っていたけど、何をやっていいかわからないから考えないようにしていたんですよ。それが体調が悪くなったことでその問題に直面して、嫁と一緒に結婚相談所をやるんだったらそれもいいかなと。誰も不幸にならないいい仕事だよなと思って。でも、結婚相談所を始めたとたん、調子がよくなったんですよね(笑)。なので、掟ポルシェ業も並行してやっていきます。
──奥様とは、YouTubeで人生相談もされていますね。
掟:視聴者からお悩みを募集したところ、占いで解決しきれないものが結構あって。中でも、「40代になってひとりだし、寂しいけれど結婚できますかね?」みたいなのが多かった。
吉田:男女関係なく、誰しもその年代になると考えるよね。
掟:結婚相談所をはじめてみていろいろわかったことがあって。出会い系や無料の婚活アプリからうまくいくこともあるけれど、遊び目的の人も多くて結婚にまではなかなか至らない。そんな中で、結婚相談所ってちゃんとお金を払うぶん真剣に結婚したい人しか来ないし、独身の証明書も出さなきゃならない。いろいろとハードルを上げていくと既婚者とかヤリモクの悪い人がいなくなる。
吉田:結婚相談所を始めたから、掟さんのTwitterのプロフィールから「お〇ん〇ん」っていう言葉がなくなったんだよね。
掟:そうそう。結婚相談所仕事も本名じゃなくて掟ポルシェ名義でやってるから、掟ポルシェという人物についてなんの情報もない人が検索して俺のTwitterにたどり着くこともあるわけじゃない? で、ファーストコンタクトが「ロマンポルシェ。の比較的お〇ん〇ん出ているほう」はダメでしょって。まぁだったらサンバイザーはいいのかとか、銀ラメはいいのかってなるけど(笑)。
──ちなみに掟さんの結婚相談所は、どのような方の利用を想定されていますか?
掟:今、初回相談に来る人はほぼ100%サブカル好き。俺と豪ちゃんのイベントに来るような人ですね。
吉田:でも、“サブカル好きの男女”だったら仲良くなれるんじゃないかっていうのは、意外と幻想だと思う。以前、ロフトプラスワンで、『Jさん豪さん』(作家の杉作J太郎さんと吉田豪さん)と、『久保能町』(漫画家の久保ミツロウさんと作家の能町みね子さん)の合同イベントをやったんです。男性客と女性客の交流が始まると思ったら逆で、Twitterで両者がののしり合っていた(笑)。
掟:嫁も言っていましたよ。サブカル同士の組み合わせはあんまりよくないって。
吉田:趣味が近いほうが、より反発することもあるかもね。
掟:「1分合っていない時計は、一生会うことはない……」みたいな。
吉田:秋元康みたいなこと言っているね。
掟:やった! 俺、秋元康になれるかも(笑)。でもプロフィールには、趣味を前面に出したほうがいい。「ちょっと気持ち悪い趣味だから……」って隠すよりも、「それでもいいですよ」って言ってくれる人とお付き合いすればいいだけ。他人の趣味を、「よくないからやめなさい」っていうのは、そもそも間違っているしね。
──自分で、結婚のハードルを上げてしまっている人もいますね。
掟:例えば、サブカル好きは同じ文化系の相手を求めてやってくるけれど、実は体育会系のさっぱりとした人のほうが合っているかもしれない。意外と自分の中で「こうでなければならない」みたいな凝り固まった理想の相手像が、みなさんあるみたいですね。そのハードルを下げるだけで、「全然いけるよ」って伝えています。そのために嫁の占いが抜群の効果を発揮していて、他の結婚相談所とうまい具合に差別化できている気がしますね。
◇ ◇ ◇
笑わせながらも、真摯に質問に答えてくれるおふたり。そのサービス精神に、またイベントに行きたい、Twitterを見たい、トークを聴きたいとファンは沼にハマってしまうのだと感じました。
(取材・文/池守りぜね)
〈PROFILE〉
吉田豪 (よしだ・ごう)
1970年、東京都出身。プロ書評家、プロインタビュアー、ライター。徹底した事前調査をもとにしたインタビューに定評があり、明石家さんま、矢沢永吉、秋元康、羽海野チカなど数多くの著名人より厚い信頼を受けている。主な著書に『男気万字固め』(幻冬舎)、『人間コク宝』シリーズ(コアマガジン)、『サブカル・スーパースター鬱伝』(徳間書店)、『書評の正座』(ホーム社)など。
掟ポルシェ (おきて・ぽるしぇ)
1968年、北海道出身。ニューウェイヴ・バンド「ロマンポルシェ。」ボーカル&説教担当。ほかにも執筆、俳優、声優、DJなど幅広いジャンルで活躍中。主な著書に『説教番長・どなりつけハンター』(文藝春秋)、『男道コーチ屋稼業』(マガジンファイブ)、『男の!ヤバすぎバイト列伝』(リットーミュージック)、『豪傑っぽいの好き』(ガイドワークス)、『食尽族〜読んで味わうグルメコラム集〜』(リットーミュージック)、『掟ポルシェのくだらないやつ』(東京ニュース通信社)など。