こぎん刺しのはんてんが永六輔さんのトレードマークになるまで

 独自の表現を極めていった高木さんのファンは、教室に集う生徒たちだけではない。放送作家の永六輔さんもそのひとりだった。義理の弟が演劇をやっていて、その縁で永さんと知り合った。

「永さんのような粋なおじさんが、舞台に立ったり、海外に講演に行ったりするときに、こぎん刺しのはんてんを着てくれたらいいんじゃないかと思って作ってみたら、永さんも気に入ってくれたんです」

 永さんも、テレビ出演や海外での仕事のたびに、高木さんに声をかけるようになり、その都度、新作を制作。こぎん刺しのはんてんは、永さんのトレードマークのようになった。

 その付き合いは約50年にも渡り、2016年に永さんが亡くなるまでに制作したはんてんは、35枚にも上ったという。

永六輔さんが高木さんの仕立てたはんてんを着用している写真。文化を継承し続けていくために、志を共にしていた永さんと高木さん。50年以上の付き合いで、35枚の衣装を提供していた 写真/本人提供

現在88歳、インスタグラマーとしても活動する

 2020年に世界中で新型コロナウイルスが猛威をふるうようになり、高木さんが主宰する「こぎん刺し木曜会」に通えなくなる生徒が増えた。時間ができた高木さんは、高木さんの活動を支える木曜会スタッフのすすめもあり、SNSを始めることにした。

 教室に来ることができない全国各地の生徒との交流の場になれば、ということとは別に、もうひとつ目的があった。

「高木先生が長年培ってきたこぎん刺しの技術や、先生が残した図案などは著作物として守られるべきなのではないかと思うのですが、青森で受け継がれてきた古典柄も踏襲しているため、著作権的には境界が難しかったんです。

 それならむしろ積極的に情報発信し、作家性を前面に出したほうがいいんじゃないかと考えました」(木曜会スタッフ)

 特に、InstagramとYouTubeの持つ影響力に着目。高木さん独自の図案や生徒の作品などを紹介し、ライブでは刺し方のコツなどを惜しみなく披露。ときどき雑談コーナーもあり、高木さんの素朴な人柄を垣間見ることができる。

「これからは紙の本じゃなくて、こういう時代なんだなということを感じます。動画を見て誰かの参考になればいいし、生徒さんからコメントがつくとうれしいです」(高木さん)

インスタライブ。あくびをする様子がなんとも可愛らしい高木さん。
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