今後の人生とこぎん刺しのこれからを考える
高木さんがこぎん刺しに出合ったのは30代のころで、独学で学びながら人に求められて教えるようになったが、当時勤めていた会社は60歳の定年まで働き続けた。
つまり、60歳までは休みなどを使ってこぎん刺し教室を開いたり、ヨーロッパでの発表を行っていたということになる。高木さんが、こぎん刺し作家、指導者を専業にしたのは定年後のこと。
「こぎん刺しが楽しかったので、70歳、80歳のときもやめようとは思わなかったんだけど、さすがに88歳のいまは、引退を真剣に考えています。こぎん刺しを50年以上もやっているので、こぎん刺しの布や糸の目数はちゃんと見えます。
認知症になってからじゃ遅いから早めにやめるべきなのか、逆にやめてしまったら認知症になってしまうのか、悩ましいところです」
高木さんのもとで長年学び、講師となった人たちが「木曜会」をはじめ、さまざまな場所でこぎん刺しを教えているが、技術の継承以外にも気がかりなことがある。それは、高木さんがこだわる、こぎん刺し専用の布や糸の確保だ。
かつて、こぎん刺しに適した布や糸を東京で入手するのが難しく、染色職人や工場と直接交渉し、色鮮やかで刺しやすい糸や布を作ってもらっていたのだ。
「この糸や布は、教室以外では手に入りにくいです。糸や布の職人や工場の人も高齢化しています。布も今までの布がなくなってしまったので、関係業者や職人さんを辿り、開発費なども負担覚悟で、新しいものを作ってもらっているところです。
私がやめるにしても、こういった材料づくりも確立してからでないと、生徒さんに安心して譲れません」
引退を真剣に考えるようになったものの、毎日「木曜会」に顔を出し、そこに集まる生徒との会話や、作品づくりのアドバイスを行っている高木さん。4月にはアメリカで刺し子を広めている先生とその教え子が、こぎん刺しを学びに高木さんのもとを訪れ、交流した。
また、5月には東京都美術館で悠美会国際美術展が開催され、「こぎん刺し木曜会」の生徒の作品が勢揃いする予定だ。
「引退を考えているんだけど、次にもう一度大きな作品をやってみようかなとも考えています。果たしてどっちが先なんでしょうね(笑)」
(取材・文/吉川明子、編集/本間美帆)
【PROFILE】
高木裕子(たかぎ・ひろこ) 北海道出身。1967年、青森でこぎん刺しと出合い、以降独学で学び、文化と技法の継承・普及に努める。1968年コルマール市(フランス)で開催のNHKセンター主催日本文化祭に参加し、1987年に自身主宰のこぎん刺し教室「木曜会」を創立。2002年には東京都美術館にてJIAC国際美術展に出展し、ビッグアーティスト賞受賞。以降、数々の展示会に出展。著書には『ちょっと素敵なインテリア~こぎん刺し~』 、『伝統のこぎん刺し こぎん刺し図案集165パターン」』(マコー社)などがある。
Twitter→@kogin_mokuyokai、Instagram→@kogin_mokuyo、YouTube→@mokuyokai
日程:2023年5月3日(水)~5月10日(水)休館日は無し
開場:9時30分~17時30分(入場は17時まで)
※5月3日の入場14時~
※最終日は14時30分閉場(入場は14時まで)
会場:東京都美術館・2階 第4展示室
台東区上野公演8-36 JR上野駅・公園口改札
公式サイト:https://www.yuubikai.com/