ショート動画のよさと長尺であるドラマのメリット
「連続ドラマの圧倒的メリットは、11時間かけて人の心を描けること。もちろん10秒で描く人もいるし、TikTokもあるけど、僕は幸せなことに1時間×11話、10~11時間ぐらいをかけて描けるメディアを手にしているので、その“長さ”っていう感覚を自分の中ですごく大切に持ってるんです。
10時間かけて描くことを念頭に、企画を考える。僕の中では“尺が長いこと”、つまり“長い時間をかけて見せられること”が、入り口にあるんですよね。
だから、いまの音楽業界は3分の音楽を作り慣れているけど、僕らドラマは尺が46分ぐらいあるわけですから、その主題歌として考えたら、曲の長さが6分あったっていい。僕はそう思っています。
一方で、他のみんなはどうしてるかって言ったら、たぶん逆だと思うんです。チャンネルを変えられるのが怖いし、配信の再生回数だってそう。“短くなきゃ”っていう感覚をみんなが持っている。もちろん、僕にだってあります」
トレンドのショート動画に相反する世間の欲求
──長くするにも勇気が要りますよね。
「やっぱり、長くする怖さはあると思うんですよね。いま、ドラマはワンシーンも短くなってるんですよ。長いシーンをなるべく作らない。でも『silent』って、とんでもなく長いシーンがいっぱいあるんです。
例えば、シーン1「ファミレス」、シーン2「紬の部屋」というように、場面ごとにシーン番号が振られるんですけど、だいたい連ドラって、1話の中で100シーンぐらいざらにあるんですよ。ところが『silent』は、いちばん少ない回で20シーンぐらいしかないんです。
これは、1シーンが長いからです。だから、他のドラマよりもシーンの数が極端に少ない。おそらく他のドラマのプロデューサーは“バカじゃないの?”って思うはず(笑)」
──回想シーンもしっかり入っていますもんね。すごく印象的でした。
「みんな、なるべくシーンを短くしたいんですよ。長いと飽きられちゃいますから。だけど、登場人物の心情をていねいに描こうとすると、どうしてもシーンに長さが必要になる。
事件は起きないけど、ストーリーを展開させるために入れてあるセリフっていうのが『silent』には本当に多いんです。ある意味、“無駄なセリフ”がいっぱいあるわけですよ。そういうのでどんどん延びてるんです。
でも僕はそれを、特に『silent』では完全によしとしている。どう見てもいまの連続ドラマのトレンドに逆行してるんですけど。普通ならみなさんが嫌がるであろうことを胸を張って思い切ってやってみたら、意外にも受け入れてもらえた。結果論かもしれないですけど、視聴者のみなさんはそれを求めていたのかもな、という気がしています。
ちなみに、日本でいちばんワンシーンが長いのは橋田壽賀子先生。『渡る世間は鬼ばかり』(TBS系)なんて、いつまでたっても同じ場所での会話が、ひたすら続いてますよね。でも見ていて飽きない。会話が面白いから見ていられる。
残念ながら僕は、橋田先生とご一緒することがかないませんでしたけれど、やっぱり橋田壽賀子ドラマの面白さって特別だったと思っています」
──そういった意味でも、『silent』は攻めていたんですね。
「それこそが狙いだったというか。“1時間しっかり(作品に)入る、没入する”ということを、視聴者のみなさんも本当はしたいと思っていたんじゃないかなと思います。
あくまで推測のひとつですけど、みんなが“早く早く”って言ってる中で、スローというかこのスピード感を心地よく思ってくれた人が、思ったよりたくさんいたんじゃないですかね」