時代に選ばれた川口春奈と目黒蓮
──反対にトレンドや、世の中の流れをくんで作った作品はありますか?
「今回、僕がいちばん胸を張れるひとつが、“川口春奈さんと目黒蓮さんで、せつないラブストーリーをやろうと思った”こと。これこそが、トレンドにハマったと思っています。
僕がドラマを作るときに最も大事にしてるのは“企画の中身”。まずは“どんなことをやるか”が何より大切なんですけど、ほぼ同率1位の2位にランクインするのが、“誰が演じるか”なんです。
この企画をやるなら“誰がやったら最高か”がもちろん重要なんですけど、同じぐらい、いまこのタイミングでやるとしたら“誰と誰でこの企画を見たいか”も常に考えています。キャスティングって水物、時代の写し鏡なんです。
いま、高倉健さんと吉永小百合さんでラブストーリーを作りたいと思っても、残念ながらできないじゃないですか。そのときにしかできないキャスティング、があると思っていて。
その時代ごとに、多くの人が“それが最高だ”と思う組み合わせがあって。もちろん、中身がおもしろかったことも当然ありますけど、例えば、木村拓哉さんと山口智子さんのラブストーリーが見たいと誰もが思っていたときに、見たい組み合わせを実現したから『ロングバケーション』(フジテレビ系)は大ヒットしたと思うんです。
それは1年後でも2年後でも、1年前でも2年前でも変わるんですよ。だからこそ、ピンポイントで“いま、このタイミングに、どういうことを、どんな組み合わせをみんなが求めているか”は、強く意識していますね。
だから、“2022年の10月クールのドラマを作る”と決まった瞬間に、後に『silent』になるこの企画を、“いま、誰がやったらいちばん面白いか”っていうことを考えました。それが、僕の中では、とにかく川口春奈さんと目黒蓮さんだったんです」
「お客さんが嫌いにならないヒロイン像を、川口さんなら作れると思ったんです。それが本当にうまくいった。
余談ですけど、紬ってのしのし歩くんですよ。ドラマの中で。のっしのっしのっしって、あれ川口春奈さんの歩き方なんですよね。あの見た目でそう歩く春奈さんが、本当にステキだなって思って。
だから紬は、“そのまんま歩いてくれていいよ”って。のしのし歩くキャラのヒロインって、日本ラブストーリー史上初じゃないですかね(笑)」
──なるほど。バズる法則はその時代によって変わる、と。
「これはもうカンですけど、みなさんがいま、“誰を見たがっているか”、それを自分なりにいつも想像しています。
間違えちゃいけないのは、その人が出たら視聴率が取れるなんていうキャストは今やいない、ということ。というか、もともといないんです、そんな人。
そうではなくて、その人が何をやっているところを見たいか。僕は川口春奈さんと目黒蓮さんが、せつない恋をしている姿を見たかったし、“みんなもきっと、見たいんじゃない?”と感じたんです。だから、このふたりで『silent』をやろうと思った。それが僕にとっては、時代に合わせに行ったものの最大です」
(取材・文/柚月裕実、編集/本間美帆)
【PROFILE】
村瀬健(むらせ・けん) ◎1973年生まれ、愛知県名古屋市出身。フジテレビジョン所属、編成制作局ドラマ・映画制作センター、部長職ゼネラルプロデューサー。早稲田大学社会科学部卒業後、日本テレビに入社。『終戦60年ドラマ・火垂るの墓』『14才の母』などのヒットドラマを手がけたのちに転職。フジテレビ入社後は『太陽と海の教室』をはじめ『BOSS』『信長協奏曲』『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』を手がける。映画でも『信長協奏曲』『帝一の國』『とんかつDJアゲ太郎』『約束のネバーランド』『キャラクター』などのヒット作品を送り出す。2022年に手がけたドラマ『silent』が大ヒットを飛ばし、累計見逃し配信数で民放歴代最高記録を樹立。バンド「プランクトン」の音楽プロデューサーとしての顔も持つ。Twitter→@sellarm、Instagram→@kenmurase