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生き方

暗黒批評家・後藤護さんがSNS全盛の令和にこそ「黒人音楽」を通して探りたかったものとは

SNSでの感想
後藤護さん。夕方の吉祥寺の路地裏と絶妙にマッチ! 撮影/山田智絵
目次
  • 複雑で混沌とした黒人音楽の世界を探るためフリー・ジャズを取り上げた
  • “S級”ミュージシャンのアルバート・アイラーならではのすごさとは
  • 本書が目指したのは、狂気と病みをはらんだ『ill』の方向性だった
  • SNS全盛となった現代では「感情をいったん遮断する作業が必要」

『黒人音楽史―奇想の宇宙』(中央公論新社)の著者で暗黒批評家及び映画・音楽ライター、翻訳家の後藤護さんインタビュー第2弾をお届けします。第1弾では、一見結びつかないようなブルースと鳥獣戯画を合わせて論じた背景などを伺いましたが、後半の話題はジャズやヒップホップについて。そうした黒人音楽から見えてくるのは、どのような風景だったのでしょうか。

(インタビュー第1弾:ブルースと「鳥獣戯画」はリンクしていた!? “暗黒批評家”がいざなう目からウロコの黒人音楽の世界

複雑で混沌とした黒人音楽の世界を探るためフリー・ジャズを取り上げた

──ジャズについて取り上げた章では、アヴァンギャルドなフリー・ジャズを論じていますね。

実はジャズを正統に論じるとしたら、ビバップ(1940年代に成立したとされるジャズの形態)がいちばんちょうどいいんです。“元祖ヒップホップ”とも言われてますから。それ以前のスウィング・ジャズはみんなで仲良く演奏していたんだけど、ビバップは、“俺のほうがうまいだろう!”とステージ上で競い合う。基本的にバトル形式なんですよ。これはヒップホップのフリースタイルで、“おい、このヘボラッパー!”と相手を煽(あお)って競うのと同じでしょう。あの世界が、実はもうすでにあったんですよ。

 ビバップは超複雑なアドリブを平然とやったり、ポピュラー楽曲のフレーズをテーマとして引用したり、超絶技巧と引用を基本とするマニエリスム芸術(ルネサンス後期の美術様式)としては論じやすいものではありました。でも単純に音楽理論の分析をするのではなく(というかできない笑)、複雑で混沌とした黒人音楽の世界をこじ開けるためには、フリー・ジャズを取り上げるのがいいだろうと。この分野は基本的にフォルムレスなので、妄想をつぎ込めるわけですね。そこでいろいろと遊んだ感じでした

哀愁ただよう横顔もサマになる 撮影/山田智絵

“S級”ミュージシャンのアルバート・アイラーならではのすごさとは

──アルバート・アイラーやサン・ラーなどのミュージシャンが論じられています。

「これは、出版・音楽レーベル『カンパニー社』代表の工藤遥さんからの入れ知恵(笑)でした。僕がよくヒップホップを論じていたら、彼が“フリージャズ狂い”の人なので、いろいろマニアックでオカルトなジャズ知識を伝授してくれたんですよ。

 同社の『AA 五十年後のアルバート・アイラー』(編:細田成嗣)という本では、アイラーの霊性を論じた批評を、編著者の細田成嗣さんから頼まれて寄稿しました。アイラーのインタビューを読むと、“UFOを見た”とか言っているんです。だからそのあたりを書いてくれ、と言われて。さすが細田さん、僕のキャラをわかってる(笑)。アイラーは愛好家らに、かつてジャズ喫茶で腕を組みながら聴かれていたような存在なので、“UFOを見た”と発言したことなんて抹消された歴史があるんです。でもUFOが彼の額を通過して、“666”という数字が浮かび上がったというエピソードがあって。その数日後ぐらいに、イースト・リバーで変死してしまうんですけど」

──壮絶ですね。やはりアイラーはフリー・ジャズ界の重要人物の中でも別格でした?

アイラーはS級でしょう。この本の登場人物は基本的にB級、よくてA級が多いですが、ひとりだけレベルが違います。本当に表現がしがたいんですが、こんなに自由な精神によって作られた音楽は聴いたことがない。

 アイラーの作品って、子どもが朗々とブローしているように聴こえるんですよね。いきなり子どものマーチング・バンドみたいな演奏が始まって、笑ってしまうんですよ。でもそこから、ものすごく緊密なアンサンブルになったりする。その間を行ったり来たりして、分裂しているわけです。めっちゃ気味悪い(笑)。これは計算でやっているのか、それとも天然なのか、いまいちよくわからないけど、インタビューを読むと天然っぽいんだよね。“UFOを見た”と言っているくらいですから。アカデミックなものからは出てこないタイプの音楽です。

 僕が黒人音楽に注目するきっかけを作ってくれた菊地成孔さん(ジャズ・ミュージシャン/文筆家)が、著書『東京大学のアルバート・アイラー』(文藝春秋)の中で、“芸術家ヘンリー・ダーガーのアウトサイダー・アートと似ている”と指摘しているんですね。そのぶっ飛んだ感じと、アイラーの天衣無縫さは、ほとんどイコールだと。僕もその指摘には痺(しび)れちゃったところがあります

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