今、若い世代からも、また海外からも熱い注目を浴びている昭和ポップス。昨今では、音楽を聴く手段としてサブスクリプションサービス(以下「サブスク」)がメインで使われているが、必ずしも当時ヒットした楽曲だけが大量に再生されているわけではなく、配信を通して新たなヒットが生まれていることも少なくない。
そこで、本企画では1980年代をメインに活動した歌手・アイドルの『Spotify』(2023年5月時点で5億1500万人超の月間アクティブユーザーを抱える、世界最大手の音楽ストリーミングサービス)における楽曲ごとの再生回数をランキング化。当時のCD売り上げランキングと比べながら過去・現在のヒット曲を見つめ、さらに、今後伸びそうな“未来のヒット曲”へとつながるような考察を、本人または昭和ポップス関係者への取材を交えながら進めていく。
今回は、1980年代の人気アイドル・岡田有希子のシングル8作中7作、オリジナルアルバム4作中3作のディレクターを担当した國吉美織とともに、岡田有希子の魅力をSpotify人気曲をもとに振り返る。ちなみに國吉は、'82年にキャニオンレコード(現・ポニーキャニオン)に入社し、'85年末まで在籍。現在は、音楽ユニット“milly la foret”(ミイ・ラ・フォーレ)として活動し、歌、演奏、作詞、作曲、編曲、ミキシング、映像制作、イラストレーションなどを手がける、自称・“究極の便利屋”だそう。
「(キャニオンレコードには)4年弱の在籍ですが、とても濃厚な日々でした。当時は岡田有希子ちゃん、堀ちえみちゃんのほかに、尾崎亜美さんや、モデルだった安野とも子ちゃんも担当していましたね。他には、田原俊彦さんのアルバム『Don't disturb』の中の1曲、『愛情現象』も担当しました」
そう語る國吉は、ストリーミングサービスについては、「散歩のときに、自分用のプレイリストを作って楽しんでいる」とのこと。
岡田有希子のSpotifyは7割が海外リスナー! 10代・20代から特に人気のワケは
今回、岡田有希子のSpotifyにおける人気度をポニーキャニオンにて調べてみたところ、月間リスナー13万人前後のうち、なんと約7割が海外ということがわかった。国別に見てみると、'23年4月現在、1位は日本の約3.5万人に対し、2位のアメリカは約3.1万人と同レベル。3位以下はいずれも2000人~4000人レベルだが、高い順にメキシコ、インドネシア、カナダ、イギリス、ブラジル、フランス、フィリピンと、アジア・ヨーロッパ・南北アメリカを中心に世界中に広がっている。それゆえ、日本のリスナーはわずか3割にとどまっているのだ。
「確かにそう言われると、このランキングは日本での人気というより、ワールドワイドなものに見えてきますね。私自身、昔から洋楽が大好きだったので、そのエッセンスを随所に取り入れたかったんです。実力のあるミュージシャンやアレンジャーの方たちとまじめに音楽を作れば、この子(岡田有希子)はちゃんと応えてくれると確信していたので、そこは譲りませんでした。当時、サンミュージックの杉村昌子さんと、私の上司であるキャニオンの渡辺有三さん、そして私の3人での合言葉は、“とにかくいいものを作ろう”でしたね。コーラスやハープなど、必要なときは積極的に取り入れて、本当にぜいたくな音作りをさせてもらいました」
海外のリスナーが昭和ポップスを好きな理由として“質の高い生の演奏が聞けるから”とよく聞くが、まさに岡田有希子の海外人気はそういったニーズに真正面から応えているのだろう。
また、Webメディア『Re:minder』と雑誌『昭和40年男』(ヘリテージ刊)が共同で実施した『80年代アイドル総選挙』で岡田有希子は総合10位なのだが、注目すべきは、年代別の順位だ。リアルタイムで聴いていたであろう40代が12位、50代が9位なのに対し、彼女が活躍していたころ、まだ生まれていない10代が5位、20代が6位と、若い世代からの人気が相対的に上回っているのだ。これについて國吉は、こう分析した。
「有希子ちゃんは今のアイドルにはいないタイプでしょうね。現代には、“作られた可愛い子”はあふれていますが、素の状態で可愛くて、歌がうまくて、頭もいいという、本当に選ばれし人だったと思います。今ならば、アイドルとはちょっと違うかもしれないけれど、芦田愛菜ちゃんのようなタイプかな」
岡田有希子は「会った瞬間から可愛かった」、話し合いを重ねてコンセプトを決定
そんな國吉が岡田有希子と初めて会ったときの印象を尋ねてみた。
「デビューすることが決まって、その半年から1年くらい前に、彼女のお母さんと一緒に会いました。普通は、デビューしてからきれいになっていくのですが、有希子ちゃんは会った瞬間から可愛くて驚きました。デビュー前は、一緒にショッピングをして洋服を買っていましたね~」
そうして、岡田有希子の制作スタッフとして、プロデューサーである前述の渡辺がシングルやアルバムのコンセプトを決め、それに基づいた作家やアレンジャーの選定を渡辺と國吉で決めた。その後、楽曲の音作りを國吉が担当してきた。
「アルバムや本人のイメージなど、いつも明確に決めていました。例えば、曲を依頼する際も、実際に作家さんとお会いして、そのコンセプトについて1~2時間は話し合いをしていました。なので、ほぼ毎回、作家の方からも期待どおりの作品が送られてきましたね」
確かに、岡田有希子の楽曲は、タイトルと曲のイメージが見事に合致するものが多い気がする。これも、丁寧な仕事ぶりの結果だろう。