「くちびるNetwork」で初のオリコン1位に! 当時の岡田と國吉の心境とは
そしてSpotify第2位には、シングル8作目にして初のオリコン1位となった「くちびるNetwork」。作詞:Seiko×作曲:坂本龍一という強力な布陣で、当時の大型タイアップだったカネボウ化粧品のCMソングに起用され、累計売上23万枚以上、'86年のオリコン年間シングルでも第36位の大ヒットとなった。
1作前のシングル「Love Fair」まで担当していた当時の状況を、國吉が振り返る。
「1位を取るまで、プレッシャーはあったでしょうね。特に、同じサンミュージックだった松田聖子さんに“追いつけ、追い越せ”みたいな雰囲気が、本人含め全体にあったと思います。彼女は、あれだけ歌唱力抜群で、アイドル性も高いのだから、もっと売れるはず、とみんなが期待してしまうのもわかります」
そんな周囲の期待やセールス状況も岡田有希子は把握していたという。
「彼女は優等生ゆえに、わがままを言わないし、“ちょっと太ったね”などといった周りの心ない声も聞こえてしまうなど、いろいろと抱えてしまったんじゃないかな……って思います。でも私自身は、“1曲売れても仕方がない、この子は長く支持されるアーティストとして育っていってほしい”という思いのほうが強かったので、周囲の声や順位はまったく気にしていませんでした」
だからこそデビュー2年目に、さまざまな作品にトライできたのだろう。
そんな中、大ヒットした「くちびるNetwork」の感想を聞いてみると、
「坂本龍一さんが、小難しいことを取り払ってシンプルな気持ちで作られた作品だということがサビ頭などから伝わります。それが有希子ちゃんにとてもよく合っていますね。私も、それまでの道筋を作ったことが、ここでの1位につながったんだと思っていて、もう担当ではありませんでしたが、とてもうれしかったです」
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今回は2曲のエピソードを紹介するにとどまったが、次回以降、“今の”人気曲をさらにひも解いていきたい。
当時は、シングルもアルバムも比較的コンスタントにヒットしていた彼女だが、このSpotifyでは「Summer Beach」と「くちびるNetwork」が突出しており、それだけ国内の若いリスナーや海外のリスナーに大きく広がっているということだろう。
その状況は、彼女を長年支えてきたコアなファンからすると、喜ばしいような歯がゆいような複雑な心境で、ともすれば“1、2曲しか知らない、にわかファンのくせに”と揶揄(やゆ)したくなるかもしれない。しかし、当時のアイドル活動を知らずして、ただ純粋に彼女の楽曲や歌声が支持されるということは、長年のファンや、國吉はじめ当時のスタッフに誇りを与えてくれているであろう。だからこそ、“沼の入り口”にいる多くのファンには、SNSやプレイリストを通して寛容な態度で接することが、今こそ大切な気がする。
(取材・文/人と音楽をつなげたい音楽マーケッター・臼井孝)
【PROFILE】
國吉美織(くによし・みおり) ◎クリエーター。イギリス留学後、上智大学軽音楽部でバンド結成。EAST WESTなどさまざまなコンテストで最優秀キーボーディスト賞、作曲賞、バンド賞などを受賞。卒業後ミュージシャンの道を親の猛反対で断念、ポニーキャニオンに入社し
女性第一号の音楽ディレクターとなる。が、上司の「あなたらしい生き方を!」というアドバイスで退社、念願だった創作&演奏活動を再開し、現在に至る。クレジットは、 ディレクター、プロデューサー、ボーカル、コーラス、キーボード、ピアノ、リコーダー、ベース、ティンウィッスル、葦笛、ゲムスホルン、タンバリン、プログラミング、レコーディングエンジニア、ミキシングエンジニア、レタリング、イラストレーティング、フォトグラフ、映像制作、作詞、作曲、編曲、などなど。