──プロゲーマーのキャリアの中で、扱うゲームが変わることもあるんですね。
「そう。この点もe-Sportsのおもしろい部分ですね。例えば野球選手ってずっと野球のプレイヤーじゃないですか。ただ、e-Sportsってゲーム自体の人気が下がると、大会が開かれなくなるんですよ。
その場合、選手は別のゲームのプレイヤーになります。わかりやすく極端な例を挙げると、『スーパーマリオ』の日本代表の選手が、ある日『ポケモン』のプロ選手になるみたいな。
いま『VALORANT』で活躍している選手も、5年くらい前は別のゲームタイトルでスターだった子たちなんです。その時期から僕は見てきて、みんなのバックボーンも知っています。だから余計に感情が入っちゃいますね」
──なるほど。感慨深いですよね。
「いま世界で活躍している選手とか、その子たちが15、6歳くらいのころから知っているんですよ。だからもう感覚としては“教え子が卒業して社会で活躍しているのを見る担任の先生”みたいな(笑)」
──(笑)。ZETA DIVISIONで特に思い出深い選手はいますか?
「そうですね~。ぶっちゃけ全員ですよ。でもひとり挙げるとしたら……特にLaz選手ですかね」
──Laz選手にはどんなバックボーンがあるんですか?
「彼はVALORANTをプレーする前は、あまり人気のないゲームで日本No.1の選手だったんです。
すごくうまいし、めちゃくちゃ努力するんですよ。でもゲーム自体が世間的に流行(はや)っていないので、ファンも視聴者も増えなくてゲームだけではご飯も食べられない。すごく苦労していた中で、人気のある『VALORANT』に移って、ZETA DIVISIONという大きなチームに入って、大きく成長した選手なんです。
世界3位という結果も出して、今は一気にファンを獲得したんですよね。すごくカッコいいですよ」
──めちゃめちゃドラマティックですね。
「他のメンバーも含め、ZETA DIVISIONって苦労していた時期が長かったんですよね。“ここまでやったし、今年ダメだったらもう解散するか”みたいな話もあった」
──ちなみに直前まで、日本チームは世界に迫るほど実力がついていたんですか?
「いや、もう全然でしたよ。半年前の大会とかではボロボロだったんで、急に3位になったっていう感じで」
──そこがまたおもしろいですよね。なぜ急に強くなったんでしょう。
「いろんな要因があると思いますが、いちばんはチームの実力が伸びたんだと思いますよ。日本のVALORANTのプレイヤー人口が増えて、より切磋琢磨できる環境になったのもありますし。
それとe-Sportsのおもしろいところで、ゲームの運営側が定期的に機能のアップデートをおこなうので“キャラクターの強さ”や“戦うフィールドの特徴”が変わったりするんですよね」
──メタ的な部分というか……野球でいうと「ボールの大きさ」とか「ストライクゾーン」が変わるみたいな感じですね。
「そうですそうです。そういった変化も追い風になった部分あるんじゃないかなと思いますね。だからひとつの大会で好成績を残しても、決して油断できないんですよ。そこもe-Sportsならではのおもしろいポイントですね」