押しても、押しても、早押しボタンが反応しない!

 そもそも、このホワイトサンズの砂(正確には塩)。思いのほかサラサラしていない。言ってしまえば、少し湿っている感じなのです。

“早押しクイズを落ち着いてやりたい”と思った私は、本番が始まると、最初のほうの問題は捨てて、まず、目いっぱいに砂時計に砂を入れることに集中しました。

 たっぷりと砂を補充した私は、“これで、しばらくは大丈夫だろう”と思って、丘を駆け降り、回答席に座りました。

 ところが……。

 クイズに答えようと、ボタンを押してもまったく反応がない。

“えっ? あんなにたくさん砂を入れたのに、もうなくなったの?”

 そう思って振り返り、砂時計を見ると……。

 砂が落ちていないではありませんか!

 あわてて丘を駆け上がってみると、砂はたっぷり残っているのに、砂時計の下の穴に砂がつまっているのです。

 それを見て思い出しました。本番が始まる直前、スタッフから「もし、砂がつまってしまったら、これを使って、下の穴をほじくってください」と、1本のボールペンを渡されていたことを……。

 受け取ったときは、“まさか、つまったりしないでしょ”なんて思っていたのに……、本当につまるんか~い!

 ポケットからボールペンを取り出して、それを砂時計の下の穴に突っ込んでつつくと、ようやくチョロチョロと砂が落ち始めます。

 すぐに丘を駆け下りて、回答席に戻り、クイズに答えようと早押しボタンを押す私。

 しかし、またしても早押し機は無反応。“うそっ!?”と思って振り返ると、やっぱり砂時計の砂が落ちていない!

 あわてて丘を駆け上がり、またボールペンで下の穴をほじくってから解答席へ。しかし、早押しボタンを押しても反応しない。あわてて丘を駆け上がり……と、そんなことを繰り返すうちに、チャレンジャーはひとり勝ち抜け、ふたり勝ち抜け……。

“マズイ! このままでは負けてしまう!”

 まさに絶体絶命。まさかこんなところで……しかも、こんなことで……。本気でスタッフに「カメラを止めてください! 砂が落ちないんです」と言いそうになったのはこのときです。

 もちろん、チャレンジャーがそんな申し出をするなんて言語道断。しかし、そのときは、“こんな理由で負けるなんてできない!”という思いから、のど元まで言葉が出かかりました。

“これでダメなら、本当にカメラを止めてもらおう”。

 そう思いながら、これでもかとほぼヤケクソぎみで下の穴をほじくると……。初めて、見たことがないくらいの勢いで砂が落ち始めたのです。

“きたきたきた! いまだ! いましかない!”

 回答席に戻った私は、速攻で2問正解して、勝ち抜くことができたのでした。

 あとからオンエアを見れば、余裕で勝ち抜けているように見えます。でも、あのときの“もしこのまま、最後まで砂が落ちなかったら……”という恐怖は忘れられません。

 そして、いまになって思うこと。それは、“あのとき、パニックになってカメラを止めなくて本当によかった”ということです。

 もし止めていたら、ウルトラクイズのスタッフの間で、「本番を止めたチャレンジャー」として長く汚名を残すところでした。

 アブナイ、アブナイ……。

(文/西沢泰生)


【PROFILE】
西沢泰生(にしざわ・やすお) 2012年、会社員時代に『壁を越えられないときに教えてくれる一流の人のすごい考え方』(アスコム)で作家デビュー。現在は作家として独立。主な著書『夜、眠る前に読むと心が「ほっ」とする50の物語』(三笠書房)『コーヒーと楽しむ 心が「ホッと」温まる50の物語』(PHP文庫)他。趣味のクイズでは「アタック25」優勝、「第10回アメリカ横断ウルトラクイズ」準優勝など。