錦織は柳ジョージ大好き! 「For Your Love」「青い瞳のステラ」への熱い思い

 では、ここからは収録曲順に、本人にエピソードを語ってもらおう。

 1曲目は、柳ジョージの熱唱系ラブ・バラード「For Your Love」('86年)。柳の楽曲は、錦織が'10年代にTBSラジオ『たまむすび』にて、毎月テーマを決めて4~5曲紹介するコーナー『月刊ニッキ』でも、アーティスト別で最多級となる5曲が選ばれている。ちなみに原曲は当時、少年隊の2ndシングル「デカメロン伝説」と同じ週に発売された。

柳ジョージさんは、バンド『柳ジョージ&レイニーウッド』を組んでいたころから大好き。すごくハスキーでカッコいいですよね。そのときは小学生でしたが、僕のような下町に住む人間は、友達のお兄さん、お姉さんがわりとレコードを持っていて、曲をダビングさせてもらうことが多かったんですよ。おかげで自分では(幼くて)レコードを買えないころから、さまざまな楽曲に触れさせてもらいました。矢沢永吉さんもそのパターンで好きになりましたね。『For Your Love』は、カラオケで歌うのも好きだったし、この曲と『青い瞳のステラ、1962年夏…』をメドレーで歌ってらっしゃるライブ映像がメッチャいいんですよ!

 ちなみに、「青い瞳のステラ」のほうは、'22年に錦織が植草克秀と行ったライブ『ふたりのSHOW&TIME』のソロ・コーナーで、錦織がカバーしている。

「この曲は、主演したつかこうへいさんの舞台『蒲田行進曲』中で、別れのシーンに使われていたんですよ。僕は当時、オーストラリアでジャグリングの稽古をしていた分、現場に入るのが遅れてしまい、その間に“これだけ聴いておけ”と渡されたテープに入っていたのがこの曲でした。でも、せっかく覚えたのに、そのシーンの曲は少年隊の『君だけに』に差し替わったので、結局歌う機会がなくなってしまって。それで20年以上ぶりに、ようやく歌えたんです

 そういった経緯もあってか、つかこうへいへのレクイエム的なエピソードも相まって、振り絞るような歌唱が感動的だった。

20年以上の時を経て、“大人の渋み”が増した錦織が歌う「青い瞳のステラ」も要チェック!  撮影/伊藤和幸

「五月のバラ」は年をとってから歌ったからこそ、味わい深さが増したのかも

 続く2曲目は「五月のバラ」。初出は'70年の津川晃だが、'77年の塚田三喜夫版や、アルバムやライブで布施明や尾崎紀世彦がカバーしたものも愛されている、スケール感のある別れのバラードだ。

「最初は、(今回と同じくサビから始まる)塚田三喜夫さんバージョンで覚えましたが、その後は布施さんのも聞いていましたね。これは、僕が5月生まれということもあり選びました。なんとなくみんな自分の誕生月だったり、その数字だったりが好きになるでしょ?(笑)」

 この歌は、特にサビの ♪むせび泣いて~むせび泣いて~ の高音域に感情がこもって聴こえるが、本人に尋ねてみると、

今回はできるだけ、“こうしよう”と意識しないで歌うようにしました。この曲は若いうちから歌っていましたが、年をとったからこその味わいが出たのかも(笑)? 僕が若いころ、ミドル世代の方から同じようなことを言われて、“何、言ってんだろう?”なんて思っていましたが、いま還暦近くになって実感しています」

 とのことで、失恋ソングながら、自然に温かい歌になったようだ。